命の危険を伴うネット依存に

一方、同じ発達障害を持つ母親たちとは、障害の話は共有できる。しかし……。

「大変な子育てなので、母たちは皆、落ち込んでいます。確かに障害の話は共有できるけれど、彼女たちは夫が主に働いているので、最小限に働けば良くて、当事者の集まりも平日の昼。そこでストレスを発散し、情報を教えてもらえるけれど、私はそこに行けない。あの人たちと私は違うんだな、という悲しさ。シングルマザーとも、発達障害の親ともどっちつかず。当時のことを思い出すと、今でも悲しくなります」

中1の2学期まで普通に生活していた次男だったが、学校に行かなくなると同時に、対人型オンラインゲームにハマり、瞬く間にネット依存に陥った。

「全く食べないし、動かないし、パソコンをしたまま、意識を失って、椅子から転げ落ちるように寝ていた。食べる間も惜しんで、ゲームを続けていて。悔やまれるのは、私がパソコンにロックさえかけていれば、ここまではならなかったって」

あまりの状態に、ママ友に協力を依頼し、担任が見守る中、タクシーで精神科を受診。脱水、低血糖、貧血が判明、命の危険があるという主治医の判断で、次男はその場で保護入院となった。

入院中はゲームができないと泣き叫び、食事を拒否したため点滴も処置され、何とか、身体的状況は改善した。それでも外泊許可が下りれば自室にこもり、オンラインゲームにのめり込む。入院と外泊を繰り返し、結局、81日間の長期入院となった。

入院している男の子
写真=iStock.com/kdshutterman
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久里浜医療センターの入院を拒絶

尚美さんはネット依存治療に実績のある、神奈川県にある久里浜医療センターを受診させたいと友人たちの協力で何とか予約を取り、中3の11月、関西から神奈川県の久里浜へと次男を連れて行った。

「横浜のみなとみらいの高層ホテルに前泊しました。夜景を見れば、気持ちが変わるんじゃないかと思って。私ももう、死んでもいいんじゃないかとだんだん思って、ここで、お金を使っちゃおうという気持ちもあって……」

久里浜医療センターでは検査を行い、主治医と心理士の面談が行われた。これまで次男は、長男と同じ発達障害の検査を受け、大丈夫ということだったが、ここでさらなる検査の結果、長男同様、「広汎性発達障害」であることが明らかとなった。

体力測定において肺年齢は60歳、エアロバイクを漕ぐこともできず、入院加療が必要となったが、次男は入院を頑なに拒絶した。実はこの時点で、担任の熱心なアプローチで次男は高校進学を決意しており、高校に通うなら、なおさら入院を勧められたが、全て拒んで帰宅した。

2月に合格した高校は、満員の地下鉄を乗り換えて、家から1時間という遠方にあった。久里浜医療センターに電話で合格を伝えたところ、主治医は次男に優しく諭してくれた。

「1週間でも10日でも入院して、プログラムに参加して、生活習慣を変えて、体力をつけてから学校に行きましょう。そうしたほうが、キミの未来が開けるんだよ」

それでも頑なに、次男は入院拒否を貫く。聞けば、最初の精神科への保護入院で、入院に対する恐怖感が大きくなっていた。せめて、最初の入院が久里浜だったらと、尚美さんはほぞむ。高校通学にあたり、尚美さんや久里浜医療センターの嫌な予感は的中した。

「コロナ禍でしばらく高校に行けず、分散登校でようやく行けたと思ったら、半日行って、次男は自分でダメだとわかって、『もう行けない』って号泣しました。そのまま、不登校、正真正銘のひきこもりになりました」