子どもへの愛情が周囲に理解されず、悩んでいる親がいる。国際医療福祉大学の橋本和明教授は「発達障害のひとつであるは自閉スペクトラム症を抱えている人のなかには、他人の表情を読み取るのが苦手な人がいる。私が関わった事例では、子どもの異変に気付くことができず、高熱を出しても放置してしまう母親もいた」という――。(第3回)
※本稿は、橋本和明『子どもをうまく愛せない親たち 発達障害のある親の子育て支援の現場から』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
難解な言葉で息子を2時間以上も説教
一般的なことを言えば、子育てというのは親が「子どもの身になって考えたかかわりを持つこと」だと言えるかもしれない。特に、年齢が幼く、自分ひとりでは何もできない子どもの場合はなおさらそうである。
親から子どもへの行動やコミュニケーションが、子どもに不快な思いを抱かせるだけでなく、時にはそれが大きなストレス要因となって、心に傷を与える事態にもなることがある。
【事例①:“難解な言葉”で長時間にわたって子どもを説教する父親】
Jさんは47歳のエンジニアの男性である。Jさんは妻と小学校4年生になる息子、幼稚園年長の娘の4人で暮らしていた。息子は活発で元気がよく、最近はしだいに母親の言うこともきかなくなり、「パパが帰ってきたら、叱ってもらうから」と母親から言われる場面がめっきり多くなっていた。
それを受けてJさんは仕事から帰宅後、息子をリビングに呼び寄せ、夜中遅くまで延々と説教をする。しかもその説教のあり方はJさん独特のもので、自分の専門である機械のことを比喩を用いて説明したり、小学校4年生の息子にとってはあまりにも難解な語句や四字熟語を多用したりし、2時間でも3時間でも一方的に話すのであった。
息子は当初おとなしく父親の話を聞いているものの、長時間になってきて、しかも父親の話す内容がちんぷんかんぷんであるため、あくびをし上の空で聞いてしまう。そうすると、Jさんはさらにテンションを上げ、ますます熱弁を振るうことになり、それが止まらず時間が過ぎていくという悪循環を生んでいた。