発達障害児を育てる親は、さまざまな苦悩を抱えている。国際医療福祉大学の橋本和明教授は「発達障害を抱えることどもは、障害のない子と比べて3倍以上も虐待を受けやすい。親子間の愛着が形成しにくく、育児に疲れた親が子供をベランダから突き落としてしまうという事件もあった」という――。(第2回)
※本稿は、橋本和明『子どもをうまく愛せない親たち 発達障害のある親の子育て支援の現場から』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
発達障害児の虐待リスクは非常に高い
発達障害という概念が登場してからせいぜい20〜30年といったところであろうか。まだまだ歴史の浅いところもあるが、それでも発達障害の概念が急速に社会に広がり、それについての理解や支援が普及してきている。
虐待との関係で言うと、発達障害のある子どもが虐待を受けてしまうリスクは高いと言われ、それについての研究も数多く出ている。2000年に実施されたサリバンとクヌートソンの調査では、障害のある子への虐待発生率は31.0%と、障害のない子の虐待発生率に比べて、実に3.4倍の高さであったと報告している。
また、細川徹と本間博彰の研究では、障害児の中でも、身体障害よりも発達障害の方が虐待を招きやすいと指摘している。さらに、杉山登志郎の研究では、虐待症例の中に、広汎性発達障害(自閉スペクトラム症)が全体の25%、注意欠陥(欠如)多動性障害が20%で、何らかの発達障害の診断が可能な子どもは実に55%に達するとも報告している。
最近の研究報告も含めて考えると、子どもに発達障害があることにより、親から虐待を受けるリスクが高くなることはこれらのことから明らかである。では、なぜ発達障害のある子どもの子育てにおいては虐待のリスクが高まってしまうのだろうか。定型発達の子どもを育てることと、発達障害のある子どもを育てることに、それほどまでに大きな違いが果たしてあるのだろうか。
さらに言えば、仮に子どもに障害があった場合においても、その障害が身体障害であるのと発達障害であるのとに虐待リスクの違いがあるのはどう考えればいいのだろうか。