大人は自分にとっての「安全な避難場所」

その赤ちゃんが少し成長し、ハイハイや歩き始めるようになると、親のところから少し離れたところまでひとりで向かう。

しかし、目の前にふと親がいないことを知り、不安や恐怖などを感じると、親を振り返り、親のもとに戻ってきて触ってきたり、ひっついてきたり、抱っこを求めたりする。これがまさに愛着に基づく行動で、その子どもにとっては将来の人間関係を築く土台となる。

つまり、愛着を示す大人が自分を守ってくれるという安全な避難場所となり、次にはその大人との関係が安心基地となって、そこから離れていろんな世界を積極的に探索し、子どもに自律性を与え、自分への自信さえも得るのである。

手をつないで日当たりの良い緑地を歩く親子
写真=iStock.com/maruco
※写真はイメージです

いずれにせよ、子どもにとってはこの愛着をいかに形成させるかがその後の発達には重要と言える。しかし、発達障害のある子どもの場合はどうかと言うと、定型発達の子どもよりも愛着形成が遅れたり、うまく形成しにくかったりする面が見られる。特に、自閉スペクトラム症児や注意欠如多動症児の場合は、しばしばそれが見受けられる。

例えば、自閉スペクトラム症の子どもの中には、自分の名前を呼ばれても呼んだ人の方を振り向かなかったり、話をしている相手と視線が合わずアイコンタクトが取りにくかったりする子がいる。

そのため、親はわが子とコミュニケーションを図ろうとするものの、思うようにコミュニケーションが成立しない。そうなると、子どもに対してなかなか共感がわきにくく、ひいては子どもをいとおしく思いにくいという事態にまで発展してしまうことがある。

親子間の信頼関係が深まりにくい傾向になる

子どもの名前を呼び、その子がこちらを振り向いて、ニコッと笑顔で応答してくれると、それだけでも親は子どもとの関係性を確認でき、心底「かわいいねぇ」と思えてくるものであるが、自閉スペクトラム症の場合はなかなかそうはいかないこともある。

注意欠如多動症の子どもにおいては、自分の興味のあることや関心のあることに刺激を受けやすいため、じっとしていられなかったり相手の話を聞けなかったりすることもある。少しひとり歩きができるようになると、今まで寝て見ていた光景とは違い、周囲が興味や関心のあることだらけで、そちらにまっしぐらに突き進んでしまう。

そうなると、先ほどの愛着で説明したときのように、後ろを振り返り親のことを確認したり、不安になって親のもとに戻ってきたりという行動にはつながりにくい。また、親が子どもと話をしようと思っても、子どもの方はすぐに注意がそれて、親の言わんとすることを中途半端に理解し、満足のいくコミュニケーションとなりにくい。

親自身も子育てに不全感を抱き、子どもとの関係も満足の得られるものとはなりにくくなってしまう。