なぜ虐待リスクが高まってしまうのか
このような話の展開をすると、発達障害のある子どもは必ず親からの不適切な養育を招くといった誤解につながりやすいので、あえて釘くぎを刺して言いたいのは、発達障害児=被虐待児では決してない、ということである。
実際に、多くの親が発達障害のあるわが子を非常に適切に養育され、驚くほど上手に子どもとかかわっておられるのを目の当たりにする。その苦労や工夫は本当に見ていて脱帽する限りである。発達障害があるからと言って、それが虐待に必ずしも結びつくわけではないということを確認しておきたい。
ただ、統計上言えることとして、定型発達の子どもよりも、さまざまな障害のある子どもの方が親から虐待を受けるリスクが高いということになる。では、なぜ発達障害のある子どもが虐待と結びつきやすくなるのかを検討していきたい。
まず挙げられる虐待のリスクに関連する要因の一つは、親子の間で愛着の形成がしにくいことである。特に、自閉スペクトラム症児や注意欠如多動症児の場合にはそれがしばしば見られやすい。そもそも愛着とは何かを説明しておかねばならないが、愛着と愛情とは少し意味合いが違う。
親への「愛着」はどのように形成されるのか
愛着というのは、困ったときや不安なとき、恐ろしいときなど、子どもは信頼できる大人(主には養育者)に近づき、触ってきたり、抱きついてきたりするという行動を指す。
英語で愛着はアタッチメント(attachment)と言うが、まさに「近づいてきてタッチする」という意味になる。日本語では「ひっつく」「くっつく」「なつく」といったニュアンスの方が表現としてはぴったりくる。つまり、いずれも「つく」という感覚が愛着には伴うのであり、それが本来の持っている意味合いである。
子どもが生まれたときは誰とも関係を持たないが、養育者(ほとんどの場合は親となるので、以下は親と記述する)の献身的な世話によって、子どもと親との間に関係性が生まれてくる。このもっとも基本となるのが愛着の形成なのである(近年の研究では、子どもは母親の胎内にいるときから母親の声が聞き分けられるとの報告もあり、出産前から子どもは母親との関係を持っているとも理解してよいかもしれない)。
では、その愛着がどのようにして形成されるのかをもう少し詳しく述べたい。まず生まれてきた赤ちゃんは空腹や気持ちが悪いとき、あるいは眠たいときなどのように不快や痛み、違和感があると泣くという行為をする。
その際、泣いている赤ちゃんの前に親が顔や姿を現し、声かけをしたり、おっぱいをあげたり、オムツを替えたり、抱っこするなどして不快や痛み、違和感を取り除く。このようなことを何度も何度も繰り返す中で、赤ちゃんは不快や痛み、違和感があると親が目の前に現れてそれを取り除いてくれることを身をもって学習する。