「息子のため」という思いはあるのだが…
確かに、Jさんとしては妻から説教をしてほしいと頼まれ、父親としても息子のためにと思って時間を費やし、懸命に話をして諭そうとするのは理解できなくもない。しかし、それが目の前の息子にどう映っているか、また息子は自分の言わんとすることを理解しているかということを抜きにして自分勝手なコミュニケーションとなっている。
そこには相互にわかり合えるという感覚や相手の気持ちが伝わるといった感情は乏しく、結果的には子どもには苦痛以外の何ものでもない体験となってしまう。Jさんは四字熟語をよく知っており、この文脈でそれを使うと相手によく伝わると思っているかもしれないが、四字熟語を知らない者にとっては、外国語を話されているかのように思うに違いない。
このJさんの息子の立場になると、その場から逃げ出すこともできず、かといって聞いているふりをしないと延々に話が続き、より一層の苦痛を背負う窮地に追い込まれる。ここまでひどくはないものの、入学式や卒業式などの行事で、校長先生やPTA会長などが壇上で長々と挨拶をし、子ども心に嫌気がさした経験はないだろうか。
話される内容があまりにも堅くて馴染めず、いつ終わるのだろうかと思いながら退屈さに耐えたことを思い出してしまう。本当ならそんな式典からいっそのこと逃げ出したくも思うが、皆の手前そんなこともできずに辛さに耐えるのであるが、まさにJさんの息子はそれ以上であったはずである。
担任教師に激怒した30代の母親
【事例②:学校からクレーマー扱いされていた母親】
子どもの身になって考えられないという事例の一つに、こんなものもあった。
Lさんは37歳の専業主婦をしている女性で、小学校4年生の息子がいる。ただ、このLさんはたびたび息子が高熱を出しているのに病院に連れて行くことも薬を与えることもしなかった。
そんなある日のこと、学校から帰宅した息子は膝に怪我をし、そこから少し出血をしていた。Lさんはそれをめざとく見つけ、「どうしたの?」と声をかけたところ、息子は学校で転んだと言った。その後、Lさんは怪我の処置をしてもらいにすぐに息子を病院に連れて行った。
実際のところはかすり傷程度の怪我であったため、消毒をするだけの処置であったが、Lさんは病院から戻るとすぐに学校に出向いていった。そして、担任の先生に対して、「怪我をしているのに、どうして病院に連れて行くとか、処置をするとかしてくれなかったのですか?」とえらい剣幕で怒りをぶつけるのであった。
学校としては、この程度の怪我はよくあることで、本人も「大丈夫」と言っていたので処置はせずに帰したと述べたが、Lさんはそれに納得しなかった。対応に当たった先生としては、「高熱を出しているのに病院にも連れて行かず、学校でちょっと怪我をしたぐらいで大袈裟に騒ぎ立てる母親。いわゆるモンスターペアレントやクレーマーだ」と考えた。