自分がダメ上司にならない方法とは

最後は、「情報の兵糧攻め」です。実は上司を「絞め殺す」のは簡単で、情報を与えなければいい。現場の情報というのは、上に立つ人に届いているようで届いていないことが少なくありません。その点、ミドルは現場の情報にもっとも通じているし、上からの情報も下りてくる有利な立場にいます。そんなミドルの特権として現場の情報を出し渋りしていると、ダメ上司はだんだん現場のことがわからなくなってくる。上に立つ人間からしてみると、自分の知らないところで物事が進むことほど、怖くて嫌なことはありません。おそらく「どうなっているんだ」と話を聞こうとしてくるでしょう。

そこでタイミングを見計らい、情報を取捨選択し、経営会議に上げてほしいようなことを伝えると、真剣に取り合ってくれる可能性が高くなります。

このようにダークサイド・スキルというのは、会社のヒエラルキーすらひっくり返してしまう影響力を発揮します。これを使いこなすことができるようになると、自信がつくのは間違いない。しかしそこで慢心してしまうと、気がつけば自分自身がダメ上司になっているのが、組織の恐ろしいところです。

いまのダメ上司だって、20〜30代のときは上のことをバカにして、「俺は絶対にああはならない」と言っていたはず。それなのに、気がついたら自分もダメ上司の一人になっている。なぜならメンバーシップ型の終身雇用制度では会社のなかにいるだけで生き残れたので、プロフェッショナルとして自立するジョブ型の働き方の訓練ができていないから。だから血気盛んなころは「自分が役員になったらあんなことは絶対しない」と言っていた人でも、いざ自分がそうなったら、自己保身に汲々とするダメ上司に成り下がるというわけです。

いまのダメ上司たちがそんな働き方しかできないのは、会社側にも責任があるけれども、私は個人にも責任があると考えています。構造的な人手不足である日本経済は、今後ますます雇用の流動化が進むでしょう。ダメ上司になる前に、ジョブ型として通用する自立型人材を目指せばよかったのです。もしこの先、ダメ上司になりたくないのなら、いまからでも自立型人材を目指してください。

自立型人材、つまりプロフェッショナルとしての道を行くというのは、どこでも通用する汎用的なスキルセットを積み重ねていくということ。その意味では、自分がこうあるべきと思うことは、たとえ上司相手であっても自己主張できるようになるべきです。

たとえば10人ぐらいの会議で、偉い人がずらっと座っていて、「これ、どうしようか」みたいな話になったときに、一番末席の人がパッと手を挙げて、「私はこう思います」と言えるかどうか。この訓練を若いうちからしなければいけない。

そして「私はこう思います」と言えたとしても、それが必ずしも当たるとは限らないし、場合によっては、「それは違う」と言われることもあります。しかしそんなふうに打たれる経験も重ねなければいけない。そうでないと自分が偉くなったとき、結局何も判断できないダメ上司になっている、というパターンが非常に多いのです。

電球
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