新規プロジェクトやクライアント開拓など、ビジネスで「提案」をする場面は多い。提案が得意な人はどんな話し方をしているのか。コピーライターの藤田卓也さんは「質問ほど、伝え方で大きく変わるものはない。うまく問いかけることができれば、相手の思考が一気に動き出し、感情も変わりうる」という――。

※本稿は、藤田卓也『伝え方で損する人 得する人』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

会議室で議論する2人
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提案という名の「押し付け」に要注意

提案は、ビジネスの始まりです。新規プロジェクト、クライアント開拓、パートナー企業との新しいチャレンジ。社内・社外問わず、あらゆるビジネス活動は誰かの提案から始まっていると言えます。

しかし、提案がうまくいかないこともしばしばです。その原因の一つが、提案ではなく押し付けになっていることです。

世の中には、さまざまな太鼓判があります。「絶対に成功する方法はこれだ」「この分野は必ず成長する」「SNSで話題」「売上ナンバーワン」などなど、どれだけ優れているかのアピールばかりが盛んです。こうした自己アピールが溢れかえっている中で美辞麗句によって提案しても、人はその通り受け取ってはくれないのです。

例えば、あるIT企業が新しいソフトウェアの導入をクライアントに提案するとします。よくあるミスは、「このソフトウェアは絶対に御社を成功に導きます」と押し付ける形の提案です。

しかし、これでは逆にクライアントの疑念を招いてしまいます。あなたの自信が伝われば伝わるほど、本当にそうなのだろうか? と、検証ポイントを相手に増やしているだけなのです。

意思決定は精神を消耗させる

社会心理学者のロイ・F・バウマイスターによれば、「アイスをチョコにするかバニラにするか」という意思決定でさえ精神を消耗させるのだそう。これが「決断疲れ」です。

決断に必要な意思は筋肉のようなもので、使えば使うほどに疲れ、消耗していきます。しかも決断し続けていると、我慢できる時間も短くなっていくという恐ろしい話まで。それほどに、何かを選び決断するというのは負荷の大きい作業なのです。

例として、スティーブ・ジョブズのファッションスタイルも理にかなっています。「今日何を身に着けるかという選択に頭を使いたくなかったからだ」とインタビューでも答えていた通り、毎朝服を選ぶ決断さえ省けるよう、イッセイミヤケの黒のタートルネックとリーバイス501で揃えていたのですから。

あなたが提案の際に添える情報は、吟味に吟味を重ねるべきです。オーバーな表現で提案を立派に見せることではなく、相手の決断をサポートするために言葉を使いましょう。要素をどんどん盛り込んでいくのではなく、提案のアプローチを変え、分かりやすさと共感しやすさを大切にする。そんな心構えが重要です。