不安や恐怖に耐えきれない時はどうすればよいのか。がん専門の精神科医の清水研さんは「考えないようにすればするほど、かえってそのことが頭から離れなくなる。1日の行動と、そのときの不安の程度を記録する不安日記をつけることで、こころのストレスを軽くすることができる」という――。

※本稿は、清水研『不安を味方にして生きる:「折れないこころ」のつくり方』(NHK出版)の一部を再編集したものです。

不安を手放す

考えうる対策をすべて行ったら、それ以上不安にとらわれていても意味がありません。

「こうなったらどうしよう」と考えてもつらいだけです。自分で対処できない不安は「手放す」ほうがいいのです。手放すにはコツが必要なので、これからお伝えします。

不安を手放すためにできることは、ふたつあります。ひとつは、不安のもととなる心配事にこころが支配されないような工夫です。もうひとつは、「もし心配事が起きても、自分は向き合っていける」というイメージをもつことです。

まず、心配事にこころが支配されないためにはどうしたらいいのでしょうか。

不安と否定的な感情の概念イメージ
写真=iStock.com/tadamichi
※写真はイメージです

今後再発しないかという強い不安

吉岡智子さん(仮名・52歳女性)は半年前に乳がんに罹患りかんしたことがわかりました。最初にお会いしたときは、左乳房の全摘出手術後、再発を予防するための化学療法を受け、その治療が終わったところでした。

彼女は乳がんの手術と化学療法を終えたところで、目に見えるがんはすべて取り除くことができましたが、今後再発しないかという強い不安に苦しんでいました。

前回の診察で、私は吉岡さんに対して、どの程度再発リスクがあると見込まれるのか、再発を予防するために自分ができることはないか、主治医に確認するようアドバイスしました。

情報が少ないと疑心暗鬼になるので、リスクを知っておくことで不安が減じます。さらに、自分ができることはすべてやったという納得感があれば、やり残したことはないだろうかという焦りからも解放されます。

今回吉岡さんは、次のような話をされました。

「前回いただいたアドバイスをもとに、主治医の先生に予測される再発率を尋ねてみました。聞くのも怖かったので、とても勇気がいりました」

「よくがんばりましたね。それで、どうでしたか」

「再発率は2割程度とのことでした。不安は残りますが、もっと高い数字を言われたらどうしようと心配していたので、その点では少しほっとしました」