※本稿は、満尾正『食べる投資 ハーバードが教える世界最高の食事術[文庫版]』(アチーブメント出版)の一部を再編集したものです。
「病は気から」は医学的に正しい
「病は気から」という言葉があるように、体と心はつながっているといわれています。
確かに体の調子が悪いときにはどうにもネガティブになりますし、心が荒んでいるときには頭痛やめまい、ふらつきなどの異変が起こりがちです。
そのような関係性を思い込みだ、と解釈する人もいますが、近年、現代型栄養失調が、生活習慣病だけでなく、うつ病などの心の病を発症する大きな原因のひとつになっていることがわかってきました。
うつ病を引き起こす主な原因は、脳内の神経伝達物質が不活性化することだといわれています。例えば、幸せを感じるホルモンのセロトニンは睡眠や精神安定に関わる物質で、不足すると睡眠障害や不安感などマイナスの精神症状に陥りやすくなります。
セロトニンの原料は、必須アミノ酸の一つ「トリプトファン」です。必須アミノ酸は体内で必要量が生成できないため、食事からとる必要があります。
トリプトファンを多く含んでいるのは、肉、魚、豆類といった食材です。しかしながら、トリプトファンをとるだけでは、セロトニンは合成されません。
精神疾患の予防・改善に有効な「ビタミン」とは
合成の過程には、タンパク質代謝に大きく関わる「ビタミンB6」と「鉄」が不可欠で、その他、脳神経の正常な働きに関わる「ビタミンB12」、神経伝達物質を放出するときに必要となる「カルシウム」「マグネシウム」を十分量、摂取して初めて脳内にセロトニンが分泌され「幸せ」を感じることができるのです。
このように、セロトニンの合成一つ取っても、6種の異なる栄養素が登場します。
糖質の摂取が多く、ビタミン・ミネラルが不足する現代型栄養失調の状態では、精神を安定させる神経伝達物質が不足してうつ状態に陥りやすくなってしまいます。
また「ビタミンD」の摂取が、うつ病をはじめとした精神疾患の予防・改善に有効ということも、多くの研究によって明らかにされています。
ビタミンDの受容体が、脳内の前頭前皮質や海馬、視床、視床下部などの部位に多く発現していることから、ビタミンDが脳を酸化ストレスから保護する一方、ドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の作用を改善させる働きがあることがわかっています。
こうしたビタミンDの働きは、ビタミンというよりもむしろホルモンに近い、極めて重要なものだといえます。ビタミンDは他の栄養素が入り込めない脳の関所を難なくすり抜けたり、細胞のバリアである細胞膜を越え、核に直接作用することができる、非常に特殊なビタミンです。この性質を持つものは、性ホルモンや副腎皮質ホルモンなど限られたものしかありません。