心の不調は日々のストレスによって引き起こされるもの。しかし最近は、食生活や栄養が心の不調と深くかかわっていることがわかっている。日本の精神栄養学の第一人者である帝京大学医学部 精神神経科学講座の功刀浩主任教授が、今だからこそ伝えたい、心の不調と食事の関係とは――。
心の不調は生活習慣病の一つ
職場の人間関係や長時間労働、仕事と家庭の両立など現代はストレスにあふれ、心の不調を感じる人が増えている。平成29年度の厚生労働省の調査でも、日本の五大疾病「糖尿病、がん、心臓病、脳卒中、精神疾患」の中で、もっとも患者数が多いのが精神疾患。これは、心の不調は年代を問わず、老若男女、誰にでも起こりうることが原因の一つと考えられる。
「心の不調はストレスによって引き起こされますが、最近では食生活や栄養が心の不調に大きくかかわっていることが明らかになっています。2000年頃から『精神栄養学』という新しい学問分野が誕生し、心の病気や精神疾患の発症と、栄養の不足・過剰・バランス異常との関係について研究が行われ、食生活や栄養補充療法による治療法が開発。海外ではすでに医療現場に取り入れられています。
現代は飽食の時代にもかかわらず、栄養バランスが偏っている人が多いうえ、朝食を摂らず、食生活も乱れがち。加えて、運動も睡眠も不足している人が多い。食事・運動・睡眠がしっかりとれていれば、ストレスを感じても跳ね返すことができますが、いずれかが不足してバランスがくずれるとストレスが積み重なり、心の不調につながっていくのです」と功刀教授。つまり、心の病気も生活習慣病の一つなのだという。
さらに、現在はコロナ禍によってストレスが増加。自粛生活で人と話す機会が減り、行動も制限されてストレスを解消する手段も減少。勤務先の業績不振など将来への不安を抱えている人もいるだろう。また、テレワークで運動不足が加速し、生活サイクルや食生活も乱れやすく、心の不調に陥りやすい状況になっている。