※本稿は、豊島晋作『日本人にどうしても伝えたい 教養としての国際政治 戦争というリスクを見通す力をつける』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
「中国には人口の2倍の家がある」?
日本より遥かに進んだデジタル国家として急速に発展する一方で、中国経済の低迷ぶりも顕著でした。特に2023年から中国経済の停滞・低迷懸念が強まりましたが、現地で見た”経済停滞の景色”も凄まじいものがありました。
中国の「不動産バブルの崩壊」を伝えるニュースでは、誰も住んでいない高層マンションがどこまでも立ち並ぶ光景が日本でも映像で伝えられていましたが、それらは地方都市の多くで見られる日常的な光景の一部です。
天津市内では117階建ての超高層ビルの建築が途中で止まり、数百メートル上空で骨組みが無惨にさらされていました。現地では「中国には人口の2倍の家がある」という冗談を聞くほど、マンション開発が盛んに行われ、多くが誰も住まない廃墟になっていました。
なぜマンションばかり建てたのでしょう。理由の一つは、不動産を建てれば、建設業者はもちろん、内装業者、家具メーカーも含めて幅広い産業が潤い、その地域を担当する共産党幹部の成績表である地域GDPが増加するからです。
また不動産価格の値上がりが長い期間にわたって続いたため、投機目的でのマンションの購入も増えていました。このためマンションの建設ラッシュに支えられて経済の過度な不動産依存が起こり、結局はバブルが崩壊して多くの人々が財産を失いました。
「日本はデフレにどう対応したのか」問い合わせが急増
先ほども述べたように、中国では2023年夏に16歳から24歳の若年失業率が20%を超えています。内需が弱く、世界がインフレなのに中国の物価は下がり続け、過去の日本のようなデフレに陥っています。
中国は経済の「日本化」を恐れており、ある外資系コンサルティングファームの幹部は、中国の大手企業から「日本は長年のデフレにどう対応したのか教えてほしい」という趣旨の問い合わせが急増していると語っていました。
私が出席した天津での世界経済フォーラム主催の国際会議「サマーダボス」会議では、共産党ナンバーツーの李強首相が出席し、繰り返し中国経済の強さを語り、国内への投資を呼びかけました。しかし、真に受ける海外の投資家はほとんどいませんでした。経済の停滞に加え、共産党の強権支配が強まり、特に「反スパイ法」の改正で自社の駐在員が拘束されるリスクも出る中で、中国への見方は厳しさを増しています。