※本稿は、豊島晋作『日本人にどうしても伝えたい 教養としての国際政治 戦争というリスクを見通す力をつける』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
軍の弱さをカバーする大量の「物量」
ウクライナ戦争が3年目に入る中で、様々な教訓が浮かび上がってきました。それは、現代の戦争を考える上で重要な内容でもあり、日本のような民主主義国家にとっては不都合な真実も含まれています。一つずつ見ていきます。
一つ目は、やはり戦争では物量が重要だったということです。
国内の反乱という混乱を経験しながらも、ロシア軍は戦場で戦い続けています。ただ、それは莫大な犠牲を払いながらの戦いです。2023年末に明らかになった機密指定が解除されたアメリカの情報機関の報告書では、ロシアは22年2月の開戦から、36万人の兵力を投入し、既に31万5000人が死傷したと分析しています。開戦時から投入した兵力の実に87%を失った計算です。24年の5月時点では50万人近くが死傷したとの推定もあります。
ウクライナ戦争の初戦で目立ったのは、これだけの大損害を出したロシア軍の弱さでした。兵站が不十分なままでの進軍、指揮命令系統の混乱、さらに兵士の低い士気という問題を抱えたロシア軍の地上部隊は、膨大な犠牲を出しながらも戦い続けました。兵士の命を軽んじる無謀な突撃も何度も繰り返してきました。
5000発のウクライナに対し、2万発のロシア
しかし、失敗や判断ミスを繰り返しながらも、それを戦場で修正しながら戦い続けるのがロシア軍の伝統であり、動員された追加兵力と圧倒的な物量が、その弱く非効率な軍を支えていました。
ウクライナ軍はNATO諸国から供与された最新兵器で戦い、一方のロシア軍は品質では劣る旧世代型の兵器の大量投入で戦っています。いわば「質」と「量」の戦いですが、この戦争が各国の軍人に教えたのは、戦争においてはやはり「量」が重要だったということです。湾岸戦争以来、現代の戦争では何かとハイテク兵器に注目が集まりましたが、やはり戦争は大量の武器と弾薬を消費することが改めて認識されたのです。
戦争が2年目に入った時点で、ウクライナ軍は一日に約5000発以上の砲弾を消費していたと見られます。この量は平時における欧州の小国の1年分の発注量に等しく、ウクライナに大量の弾薬を送っているNATO諸国では、自分たちの弾薬の在庫が逼迫する事態に直面しました。
一方のロシアは、その4倍の一日2万発を消費していたと見積もられています。逆に言えば、ロシアにはそれだけの弾薬備蓄と生産能力があったということです。