ロシアのウクライナ侵攻はいつ終わるのか。東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠准教授は「ロシア軍はじりじりと占領地を広げており、ロシア国民のプーチン支持は盤石と言える。このままではロシアの完全勝利という欧米にとって最悪の結末を迎える」という――。(後編/全2回)(インタビュー・構成=ライター・梶原麻衣子)
2024年6月26日、ロシア、モスクワ地方セルギエフ・ポサードにある至聖三者聖セルギイ大修道院を訪問し、ロウソクを立てるウラジーミル・プーチン大統領(右)とモスクワ・全ロシア総主教キリル
写真=Sputnik/共同通信イメージズ
2024年6月26日、ロシア、モスクワ地方セルギエフ・ポサードにある至聖三者聖セルギイ大修道院を訪問し、ロウソクを立てるウラジーミル・プーチン大統領(右)とモスクワ・全ロシア総主教キリル

プーチンがウクライナに侵攻した本当の理由

前編から続く)

――プーチンは核の脅しの一方で、たびたび「停戦」についても言及し、2024年5月末にも口にしています。真意はどのあたりにあるのでしょうか。

【小泉】プーチンは「停戦を排除しない」と割合早い時期から言ってはいるのですが、これは実際にはウクライナに対する「降伏勧告」でしかありません。「停戦してやってもいい、ただしわれわれの条件をのむという前提で」ということですし、当然、併合したと主張している4州に関しては一切譲らない。

プーチンが戦争目的として当初から掲げているウクライナの「非ナチ化・非軍事化・中立化」についても、「まだ何も達成できていない」とプーチン本人が述べています。

戦争目的についても、実際のところはウクライナの領土を分捕るということ以上に、ウクライナの主権を認めないというところに本意があるように思います。

プーチンの世界観は「ウクライナが主権国家などと称し始めたがために、ロシア全体の安全が脅かされ、われわれの起源であるところのキーウを発祥とするルーシ民族としての一体性が損なわれている」というものですから、歴史的一体性を取り戻すためにはウクライナにロシアとは別の主権が存在してはいけない。

これはプーチンが開戦前の2021年7月に書いた論文でも明らかです。

だからこの戦争はまだまだ続く

その論文ではソ連建国の父たちの政策の誤りも指摘しています。

ソ連は民族別共和制を導入しましたが、その際に地域ごとの基幹民族を定め、民族ごとにソビエト社会主義共和国を持たせる方式にしています。

この時に、ウクライナ・ソビエト社会主義共和国を作ってしまったことで、ウクライナをロシアとは別の民族であるとみなし、ソ連公認のお墨付きを与えてしまった。これによってウクライナ領内では独自の文化政策や教育が行われ、ウクライナ文化が強まってしまって今に至るのだとプーチンは批判しています。

ウクライナなんて国はなかったはずなのに、ソ連がウクライナという行政単位を作り出したことで、ロシアとは別の領域だったかのようになってしまったのだ、と。

もう一つは、ソ連憲法の中に連邦離脱の自由を書き込んでしまったこと。建国の父たちがソ連離脱条項を入れたことで、ソ連崩壊時にウクライナが本当に離脱してしまったではないか、と。

この2つが「レーニンの時限爆弾」であり、ソ連時代の過ちが今の事態を生んでいる。だからこれを正すために戦争を行っているというのが現在の状況です。

ウクライナの独立性を一切認めない議論ですから、こういうことから考えても、プーチンが言うところの「停戦」は、やはりウクライナに対する「降伏勧告」でしかない。ウクライナがこれを受け入れることはありませんから、戦争はまだまだ続くのではないでしょうか。