献血をした後に日本赤十字社から手紙が届くことがある。内科医の名取宏さんは「手紙が届くのはB型肝炎ウイルスに強い大変貴重な血液の持ち主で、こうした人からの献血が薬を作るのに使われている」という――。
Xに投稿された日本赤十字社からの手紙
写真提供=オヤツダさん(X投稿

日本赤十字社からの手紙

先日、SNSのX(エックス)で、献血後に日本赤十字社から「あなた様の血液にはB型肝炎ウイルスに対する強い免疫力がある」という手紙が届いたという投稿が注目を集めました(※1)

この手紙には「免疫力というのは抗体と呼ばれるタンパク質で、B型肝炎を防ぐ効果があること」、だから受け取った人は「B型肝炎になるおそれがないこと」、その血液は「B型肝炎の発症を予防する薬の材料となること」が書かれていて、「今後も献血(血漿成分献血)をお願いしたい」という旨で締めくくられています。

なお「免疫力」という言葉は正式な医学用語ではありませんが、わかりやすく伝えるために使われているのでしょう。この場合は、B型肝炎ウイルスに対する防御抗体である「HBs抗体」を指していて、手紙の中でも説明されていました。

こうして献血された血液から、B型肝炎の発症を予防する薬が作られているのは、医療関係者にはよく知られている話です。ところが、長年にわたって献血を続けている方からも「知らなかった」という声が上がるほど、一般にはあまり知られていません。そこで、今回はB型肝炎と、献血によって作られるB型肝炎の予防に役立つ医薬品について書くことにします。

(※1)togetter「献血したら『あなた様の血液にはB型肝炎ウイルスに対する強い免疫力がある』という手紙が来た→似たような経験がある人もちらほら

B型肝炎ウイルスとは何か

B型肝炎というと、「B型肝炎ワクチン」を思い浮かべる人も多いでしょう。ワクチンで免疫力――つまり防御抗体(HBs抗体)ができれば、B型肝炎ウイルスに感染しません。インフルエンザウイルスやSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)と違って、B型肝炎ウイルスはワクチンの標的となる表面抗原の変異が比較的少ないため、一度免疫を獲得すれば長期間にわたって感染を防ぐことができます。B型肝炎ワクチンは30年以上も使用されており、安全性や有効性に関しても十分な実績があります。

そのため、B型肝炎ワクチンは、世界の多くの国々で乳幼児期の定期予防接種として導入されています。日本でも2016年以降、全ての乳児を対象にB型肝炎ワクチンが定期接種となりました。それ以前に生まれた方でも、医療従事者など特定のリスクがある場合には接種が推奨されていました。私も、今から30年ほど前、医学生のときにワクチンを接種しています。実習で患者さんの血液・体液に接する機会があるからです。

B型肝炎ウイルスは、血液や体液を介して感染し、その名のとおり肝臓に炎症をひき起こします。具体的な感染経路は、性的接触、針刺し事故、歯ブラシや剃刀の共有などです。握手やハグ、トイレやお風呂といった日常的な行動で感染することはありません。B型肝炎ウイルスに感染すると、急性期には倦怠感や食欲不振、発熱といった症状とともに黄疸が生じることもあります。