B型肝炎の予防に使われるワクチンと防御抗体
以上のように、B型肝炎は命に関わることもある恐ろしい病気です。近年では抗ウイルス薬の進歩により肝炎の進行を抑えることが可能になり、また肝がんに対する治療の選択肢も増えてきたとはいえ、最初から感染を未然に防ぐことが最も望ましいでしょう。しかし、B型肝炎ワクチンを接種していない人、接種しても十分な防御抗体を産生できない人が存在するため、ワクチン接種だけではB型肝炎の完全な予防は困難です。
十分な防御抗体を持たない医療者が、針刺し事故などでB型肝炎の患者さんの血液に曝露した場合、できるだけ早くB型肝炎ウイルスに対する防御抗体を高濃度に含む血液製剤「抗HBs人免疫グロブリン」を投与します。これが冒頭で出てきた「B型肝炎の発症を予防する薬」です。同時にワクチンも接種しますが、免疫系が抗体を産生するまで時間がかかります。その間に感染が成立する可能性があるため、すぐに防御抗体を投与することで感染を防ぐわけです。
他に防御抗体が投与されるケースに、B型肝炎のお母さんから生まれた新生児があります。出生時、新生児は母親の血液に触れるため、ウイルスに感染するリスクが高いとされています。さらに、新生児期に感染すると成人に比べて慢性化しやすいのです。生まれてからできるだけ早く防御抗体を投与し、B型肝炎ワクチンを接種します。やはり、ワクチンによる免疫が働くまでの間に感染が成立するのを防御抗体で防ぐことを目的とします。
献血が必須となる貴重な医薬品
このように献血で集められた「B型肝炎に対する防御抗体を豊富に含む血液」から、医療者や赤ちゃんを守る貴重な薬が作られています。現在の技術では、B型肝炎に対する防御抗体を人工的に大量生産することは困難なため、献血された血液を原料として作る以外に方法がないのです。冒頭の手紙を受け取った方は、その後も献血に通われていると聞きました。
また、献血によって集められた血液から作られるのは、B型肝炎の予防に用いられる医薬品だけではありません。貧血の治療に必要な「赤血球製剤」、血小板減少症の治療に投与される「血小板製剤」、大量出血や凝固異常の治療に使われる「血漿製剤」、低アルブミン血症に対する「アルブミン製剤」、血友病の治療に不可欠な「血液凝固因子製剤」も、献血された血液から作られています。さらに献血によって提供された血液は、病気や手術、事故で治療を必要とする患者さんに輸血されることで、その命を支えています。
ですから、献血によって集められた血液はすべて誰かの役に立つのです。医師として、日頃から献血にご協力くださる方々には心から感謝しています。この原稿を読んで少しでも興味が湧いたという方がいたら、ぜひ献血へのご協力をお願いいたします。