致命率の高い重症の「B型急性肝炎」

もしもB型肝炎ウイルスに感染しても、成人における多くのケースでは免疫系が防御抗体を産生しウイルスを排除しますが、一部の症例では有毒な物質を解毒・排泄する肝臓の機能が失われる「急性肝不全」になったり、感染が持続して「慢性肝炎」になったりします。

特に昏睡にいたるような重症の急性肝不全(いわゆる劇症肝炎)は、非常に致命率が高い病気です。抗ウイルス薬の投与、血漿交換、血液透析などの内科的治療を行いますが、改善しないときは肝移植が検討されます。内科的治療は市中病院でもできますが、肝移植は大学病院でしかできません。

私が大学病院に勤務していたときにも、何例かの急性肝不全を診た経験があります。転院初日に昏睡に陥り、内科的治療にはまったく反応しなかったのに、外科に転科して肝移植を受け、退院日に歩いてあいさつに来てくださった20歳台の患者さんのことはよく覚えています。外科のすごさを思い知らされました。

また、ドナーが見つからず、肝移植ができないまま大学病院から紹介元の病院に転院していった50歳台の患者さんもいらっしゃいました。厳しい現実ですが、肝移植ができない場合は、他の患者さんのために大学病院のベッドを空けなくてはなりません。その患者さんは、残念ながら転院してまもなく亡くなりました。

肝がんの原因になる「B型慢性肝炎」

一方のB型慢性肝炎は、肝硬変や肝がんを引き起こす病気で、こちらも注意が必要です。日本における肝がんの原因のうち、B型肝炎が占める割合は1割強とされています。初期は無症状なので診断されないまま見過ごされ、症状が出たときにはかなり進行しているケースも少なくありません。

例えば、肝がん破裂のため救急搬送された60歳台の患者さんは、それまでまったく自覚症状がありませんでした。肝実質には痛覚がなく、肝臓の内部でがんが大きくなっても痛くはありません。しかし、がんが破裂し、出血して肝臓の被膜を刺激すると強い腹痛をひき起こし、同時に血圧低下をもたらします。輸液や鎮痛剤投与を開始し、放射線科の先生に血管内治療による止血をしてもらいましたが、残念ながら救命できませんでした。

Hepatitis B Test
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すでにB型慢性肝炎と診断されている患者さんは、肝がんをできる限り早く発見し、早く治療を開始できるよう、定期的に腹部超音波検査や腹部CT検査を受けていただきます。定期検査を受けていれば「発見したときには手遅れ」ということはありませんが、それでも油断はできません。抗ウイルス薬が進歩した現在はだいぶん改善されたものの、肝がんの治療は長丁場になります。がん組織を「外科的切除」や「ラジオ波焼灼術」で取り除いても、ウイルスに感染した細胞は取り除けません。よって肝がんのリスクは高いままで、再発しやすいのです。肝がんが再発するたびに治療を繰り返すのですが、だんだんと肝臓の機能が弱まり、積極的治療ができなくなっていきます。