意思決定スピードでロシアに勝てず
NATOとしては、最大の仮想敵でかつ核保有国であるロシアとのエスカレーションは、世界大戦、さらには核戦争を誘発する可能性がある以上、許容できませんでした。このため軍事支援は徐々に進めるしか選択肢がなかったと言えます。
これに対し、ロシアは、プーチン大統領の決定がすぐに国家の意思決定となる、いわばワンマン経営の国家です。意思決定のスピードは速く、戦時においては独裁体制にある程度の優位性があったとも言えます。
人類はこのことに早くから気づいており、民主制をとっていた古代ギリシャでは、戦争が始まればひとまず議論はやめて、緊急時の措置として一人のリーダーに大きな権限を与えていました。古代ローマも、戦時には独裁官ディクタトルを置いて、緊急事態に対応していました。
もちろん現代の民主主義国家では、臨時の措置といっても独裁制を敷くことはできません。第二次世界大戦当時のドイツのように独裁者が暴走するリスクも大きいからです。
「心配が過ぎる」せいで付け入る隙を与えた?
ただ、ロシアとの戦争をエスカレートさせるというNATOの懸念は、今となっては過大であり、むしろ侵略国家に付け入る隙を与えたという意見がNATO側にもあります。
アメリカ外交問題評議会のリチャード・ハース会長(当時)はNATOの対応は「心配が過ぎる」と苦言を呈しています。ウクライナへの最大の兵器供与国であるアメリカでも提供のペースはもっと速くすべきだったとの意見が出ています。
最低限言えるのは、戦時において民主的なプロセスと味方の敗北と敵の勝利を防ぐためのスピーディーな意思決定をどう両立させていくのか、日本を含め多くの民主主義国の大きな課題になることが改めて分かったということです。そして、戦争はやはりエスカレートするものであり、制御していくのは極めて難しいということです。