※本稿は、豊島晋作『日本人にどうしても伝えたい 教養としての国際政治 戦争というリスクを見通す力をつける』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
生まれながらにして戦うことを義務付けられている
(前編からつづく)
なぜイスラエルの指導者たちは「殺られる前に殺れ」という論理を自分たちの行動指針にしたのでしょうか。もちろん、どの国の政治指導者も国家と国民を防衛する役割があります。ただ、特にイスラエルの政治家や政府機関の指導者たちは、何十年にも渡って実際にこの国家防衛の義務を果たさなければなりませんでした。今もそうです。
イスラエルは過去に何度も戦争をしかけてきた敵国(アラブ諸国)や、今も攻撃を続けるヒズボラやハマスなどの敵対組織に国土を囲まれてきました。さらに、自分たちが土地を奪ったせいで、イスラエルを強く憎むようになった大勢のパレスチナ人たちがすぐ近くに住んでいます。
「敵」が近くにいる以上、現実問題として、先に殺らなければ殺られるという実感は、イスラエルの過去の経験に由来しています。イスラエルは生まれながらにして戦うことを宿命づけられた国家なのです。
歴代首相は特殊部隊の出身者が多い
国が生まれた瞬間、つまり建国の翌日から周辺諸国に戦争をしかけられています。1948年5月14日にイスラエルが建国された翌15日、周辺国のエジプトやヨルダン、シリア、レバノンなどアラブ諸国の軍隊がイスラエルに攻め込みました。これを第一次中東戦争と呼びます。これ以来、イスラエルは4度もの戦争を経験してきました。まさに「殺さなければ殺される」状況に何度も直面してきたのです。
ここから、以下のような論理を抱くようになったのです。
「自分たちは国家がなければ生き残れない。そして国家を持った今でもなお自分たちは常に存亡の危機にあり、戦わなければ生き残れない。だから、たとえ世界を敵にまわしてでも戦い続ける」
イスラエルでは、首相をはじめとした多くの政治指導者が実戦経験のある元軍人です。男女ともに徴兵制のある国なので、指導者が元軍人というのは当然ですが、特に歴代のイスラエル首相には、軍の中でも最前線に立つエリートである特殊部隊の出身者が複数いるのは無視できません。特殊部隊員は、軍のイデオロギーを体現する存在でもあり、「確実に相手を殺す」意識がひときわ強い集団でもあるからです。