2023年10月、パレスチナの行政区であるガザ地区にイスラエル軍が侵攻してから10カ月がたつ。なぜイスラエルとパレスチナは幾度となく衝突を繰り返すのか。豊島晋作『日本人にどうしても伝えたい 教養としての国際政治 戦争というリスクを見通す力をつける』(KADOKAWA)より、ユダヤ人とパレスチナ人の言い分を会話形式でお届けする――。(前編/全2回)
ハーン・ユニスの東側に戻るパレスチナ人たち
写真提供=©Omar Ashtawy/APA Images via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ
イスラエルとハマスの紛争中、カーン・ユニスでの襲撃を受けてイスラエル軍が地域から撤退した後、ハーン・ユニスの東側に戻るパレスチナ人たち。2024年7月30日、ガザ地区南部にて

日本人には理解が難しい「先祖の土地争い」

ユダヤ人とパレスチナ人は、基本的に土地をめぐって殺し合っています。

ユダヤ人とは、ユダヤ教徒またはユダヤ教に改宗した人あるいは母親がユダヤ人である人を指します。パレスチナ人とは、今のイスラエル領土を含むヨルダン川から地中海ちちゅうかいに至る土地に長年住んでいた人々です。

この両者が互いに、上記の土地を「自分たちのものだ」と主張しているのです。確かにパレスチナ人は長年その土地に住んでいました。一方で少数ですがユダヤ人たちの一部も長年そこに住んでいました。さらにユダヤ人たちは、「その土地は大昔に自分たちの祖先が住んでいた場所であり、自分たちはそこに“戻った”だけだ」とも主張しています。

私たち日本人にとって、土地をめぐって殺し合うのは理解が難しいことかもしれません。日本列島の土地は最初からそこにあったからです。鎌倉時代の元寇や第二次大戦後のアメリカの占領はありましたが、国土の大部分が他者に侵略されたり、蹂躙じゅうりんされたりした経験はありません。

ユダヤ人とパレスチナ人、双方の言い分を比較してみる

しかし、世界は違います。土地をめぐって何千年も殺し合ってきたのが人類の歴史です。

パレスチナ紛争に関しては、情報があまりに多く、どれだけ説明しても「これで十分」ということはありません。万人を納得させるような説明は困難でしょう。

日本人にどうしても伝えたい 教養としての国際政治 戦争というリスクを見通す力をつける』(KADOKAWA)の第4章では、両者がいったい何を言っているのか、可能な限り要点のみ分かりやすくするため、まず、イスラエルを建国したユダヤ人と、そこに住んでいたパレスチナ人の会話によって説明することを試みます。

ユダヤ人

「この土地は約3000年前に祖先が王国(※1)を築いていた場所だ。そして、聖書によって約束されたユダヤ民族の帰るべき故郷である(※2)。もともと少数の我々の仲間もずっとここに住み続けてきた。誰にでも住む場所が必要だ。だから我々はここに住む権利がある」

※1:紀元前1000年頃に成立したユダ王国を指します。
※2:旧約聖書「創世記」では神はイスラエルにナイル川からユーフラテス川までの全ての土地を与えたとしています。また、「出エジプト記」23章31節においても神がユダヤ人の始祖でもあるアブラハムに土地を与えると約束する記述があります。

パレスチナ人

「それはおかしい。そもそもユダヤ人たちは2000年近くこの土地を不在にしていたはずだ(※3)。その間この土地で暮らしてきたのは我々だ。あなたがた少数のユダヤ人が住んでいた場所はずっと小さな土地だった。なのに、100年ほど前から突然、大挙して押しかけて私たちの土地に勝手に住みはじめたのだ。そもそもこの土地は我々パレスチナ人の土地である」

※3:ユダヤ人の大多数がヨーロッパなどに離散していたことを指します。