「殺られる前に殺れ」と聖典が説いている

まず、イスラエルの論理を端的に要約する一文から紹介します。

「誰かが殺しに来たら、立ち向かい、相手より先に殺せ」

かなり強烈な印象を受ける一文ですが、これはユダヤ教の聖典のひとつである「タルムード」の一節、「サンヘドリン」篇72章1節の文章です。

当然、原典はヘブライ語ですが、英語では、「If someone comes to kill you, rise and kill him first.」、つまり「られる前に殺れ」という意味です。イスラエルの首相や閣僚などの政治指導者、そして軍や情報機関の幹部は、ある意味でこの論理をもとに行動しているとも言えます。

豊島晋作『日本人にどうしても伝えたい 教養としての国際政治 戦争というリスクを見通す力をつける』(KADOKAWA)
豊島晋作『日本人にどうしても伝えたい 教養としての国際政治 戦争というリスクを見通す力をつける』(KADOKAWA)

なお、この「Rise and Kill First」は、早川書房から出ているロネン・バーグマンの『イスラエル諜報ちょうほう機関 暗殺作戦全史』(小谷賢監訳)という有名な本の原題でもあります。この本はモサドやアマンなどイスラエルの諜報・情報機関が実施してきた暗殺作戦や軍事行動を詳しく記述した本ですが、著者のバーグマンが執筆のため軍や諜報・情報機関の幹部にインタビューした際、彼らの口からこの一節がよく出てきたと言います。

バーグマンの本はイスラエルの暗殺作戦の実態を、ここまで書くかというほどに暴いており、イスラエル政府が出版を妨害しようとした著作でもあります。内容は非常に豊富で読みごたえがあり、2023年10月以降にイスラエル周辺で起こった状況をより深く理解したい人にはお勧めの一冊です。(つづく)

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