子どもを持つ人が制度的に優遇されているとして、「子持ち様」という皮肉な言葉が生まれた。早稲田大学名誉教授の池田清彦さんは「産休・育休制度によって、子どもを持たない人たちの業務負担が増えるなど明らかな不利益があるのであれば、制度の利用者ではなく会社や政治に訴えるべきだ」という――。

※本稿は、池田清彦『多様性バカ 矛盾と偽善が蔓延する日本への警告』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

娘を叱責する母親のシルエット
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「産休クッキー」は配慮が足りない?

多様性をめぐる論争にはLGBTに関するもの以外にもさまざまなものがあり、その大半は、本来保障されてはいない「愛される」「感謝される」「優しくされる」といった「受動的な権利」をことさらに主張し合うことに起因している。

本来ないものをあるのが当たり前だと勘違いすると、何かと話がややこしくなってしまうのだ。

つい最近もSNS上で「産休クッキー問題」なるものが物議を醸していたけれど、あれなどまさしくその典型だ。

ネットニュースなどを読む限り、ことの顛末はこうである。

ある女性が産休に入る前に、赤ちゃんやお母さんのイラストがあしらわれたクッキーを職場の人たちに配ったことを画像付きでSNSに投稿した。ところがそれに対して、配慮が足りないという批判の声が上がったというのだ。

受け取りたくない人は拒絶すればいい

世の中には不妊治療中の人や未婚の人など多様な人がいるのだから、そういう人たちの気持ちに配慮しろというわけだ。中には「仕事に穴を開けるくせに幸せアピールをするな」といった批判もあったらしい。

投稿者の女性は「クッキーはグループ内の特定の人に配った」と説明し、誰かれかまわず無神経に配ったわけではないと弁明したようだが、「その中に人知れず不妊治療している人がいるかもしれないじゃないか」などと言いだす人もいたという。

そもそもの話、その女性にクッキーをもらったわけでもない第三者があれこれ難癖をつけること自体意味不明だけど、女性がどんなクッキーを配ろうと、幸せアピールをしようとそれはその女性の勝手だし、仮にクッキーをもらった当事者が実は人知れず不妊治療中だったとしても、女性の行為を「配慮がない」などと怒る権利はもともとない。それを公言していないのであれば、察しろというほうが無茶である。

もちろん、だからといって黙って受け取れという話ではなく、受け取る側にもそれを拒絶する権利は当然ある。そんなことをすれば角が立つではないかと反論する人がいるかもしれないが、「角を立たせたくない」というのだって、その人の勝手な欲望ではないか。