婦人科診療や子宮頸がん検診などの際に麻酔が使われないのは、女性の痛みが軽視されているからという説がSNS等で繰り返し話題になっている。産婦人科医の宋美玄さんは「体の内側にある女性特有の臓器の痛みに対して有効で、手軽に使える魔法のような麻酔法は存在しない。女性に対する差別ではないことを知ってほしい」という――。
拡大鏡で子宮のイラストに焦点を当てて
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「子宮頸がん検診」にまつわるデマ

女性の体に生まれたら、健康管理のため、婦人科と付き合うことが必要になります。生理痛がわずらわしかったり、不正出血が生じたりすることもあるでしょうし、特に気になることがなくても性交渉の経験がある人は「子宮頸がん検診」の対象になるからです。

ところが、婦人科受診に対して、心理的ハードルを感じる人も多いようです。その要因はさまざまだと思いますが、診察や処置の際に痛みが生じるかもしれないという点が大きいのではないでしょうか。

少し前、SNSのX(エックス)で、子宮頸がん検診が話題になりました。子宮頸がん検診で子宮の細胞をこすり取るために使う柔らかいブラシが、むしろ子宮頸がんの原因だとする投稿がバズっていたのです。子宮頸がんの原因はHPV(ヒトパピローマウイルス)ですから明らかなデマですが、「だから痛かったのか」と共感する人などの声が集まっていました。こうしたデマが広まると必要な検診なのに怖くて受けられない人が出てくる恐れがあるため、私はX、Instagram、Tik Tokなどで、どれだけ柔らかいブラシなのか伝えました。

女性特有の臓器に使いやすい麻酔はない

たしかに婦人科診察では、内診台に乗って脚を開いた状態で、腟から子宮や卵巣を診るため、羞恥心などの心理的抵抗を感じる方も多いと思います。また腟に内視鏡などの器具や手を入れて診察を行うこともあるので、個人差は大きいのですが、痛みが生じることもあるでしょう。緊張して体がこわばったり、腰が逃げたりすると痛みを感じやすいですし、使用する器具、診察する医師の手技や態度などによる影響もあり得ます。

これまでに何度も、SNS上では「歯科では麻酔をするのに、どうして婦人科ではしないの?」「これが男性患者の診察なら麻酔をするのでは?」という声が上がり、「女性の痛みが軽視されている」と感じている方が少なくないようです。ただ、多くの婦人科医は女性の患者さんしか診察しないので、「男性患者の診察や処置に際しては痛みを積極的に取るが、女性患者には痛みを強いている」というわけではありません。また、婦人科のみ麻酔が保険適用になっていないというわけでもありません。じつは女性特有の臓器――腟や子宮、卵巣は体の内側にあるため、歯茎に局所麻酔の注射をして歯の痛みを取るような、外来処置中に短時間でできて有効な麻酔が存在しないのです。