NATOの理屈はプーチン大統領に通用しない

ロシア領への攻撃について言えば、当初NATOは、自分たちが提供したミサイルなどは使用しないようウクライナに要求していました。しかしロシアが自国領内から攻撃を行っている以上、この要求はウクライナにとって受け入れがたいものでした。

そして結局、北東部のハルキウをめぐる戦闘でウクライナが劣勢に陥ると、NATOはこの方針も撤回し、提供した兵器によるロシア領への攻撃を認めています。戦争は着実にエスカレートし、民主主義国家が議論する地理的な制約など、戦争では通用しないことが明らかになったのです。

次は戦車です。NATO諸国は、開戦当初は戦車の提供も拒否していました。やはり戦争のエスカレートを懸念したからです。しかし、ウクライナ地上軍が劣勢とみるや、ドイツのレオポルト戦車、イギリスのチャレンジャー戦車などが提供されていきました。アメリカの世界最新鋭、エイブラムズの提供も決まります。

つまり一転して、NATOが誇る世界最強の最新戦車が次々に提供されていったのです。そもそもドイツなどは当初、武器の提供は拒否し、あくまで防弾具とヘルメットしか供与しなかったことを考えると、劇的な方針転換だったと言えます。

拒否していたF16戦闘機も提供せざるを得ない

さらに戦闘機です。これも当初はNATO諸国が提供を拒否し、後に提供が決まった兵器です。開戦当初からウクライナ軍に圧倒的に不足していたのは航空戦力でした。多くの戦場でウクライナの地上部隊は上空からの支援を受けられず、苦戦していました。

ウクライナ空軍が保有している旧ソ連製のMiG‐29は性能に限界があり、対空戦闘などでもロシア空軍のMiG31やSu‐35などには対抗できませんでした。また古いレーダーではロシアの巡航ミサイルやドローンを迎撃できません。

このためウクライナはアメリカのF16戦闘機や対戦車ヘリ=AH64アパッチの提供を強く求めてきました。F16を求めた理由は、NATO諸国が保有する機体の数が多く、手に入る可能性が高かったからです。F16は全世界約25カ国で運用され、NATOに加盟する欧州8カ国やトルコなどで700機ほど配備されていると見られています。またF16は地上作戦を支援することができるなど幅広い役割をこなすことができます。

戦闘機の提供もNATOは長い間にわたり拒否していましたが、やがて議論が始まり、開戦から約1年後にポーランドがNATOとして初めてMiG‐29戦闘機をウクライナに提供します。そして結局は、アメリカ製のF16戦闘機の提供が決まり、アメリカ国内などでパイロットの訓練が始められることになりました。