慰謝料300万円請求の夫が10万円で折れた

2回目の調停では、西山さんの弁護士が、「50万円は難しい」と言うと、夫は、「では裁判で戦いましょう」と言った。西山さんと弁護士は、「仕方がないね。もう裁判にしましょうか」と話していたところ、夫の調停委員から、「夫さんが相談している人から子どものことを考えてやりなさいと言われたらしく、夫さんが示談してもいいと言っている。でも慰謝料がゼロでは応じられない。いくら出せますか?」と訊ねられる。

西山さんと弁護士は、あらかじめ決めておいた10万円という金額を提示すると、「3回目までに考えておく」と夫が言って、2回目の調停は終わった。

茶封筒に10万円
写真=iStock.com/yuruphoto
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「偉そうですよね……。どの口が言うの? って何度も思いました。こちらが慰謝料を欲しかったぐらいなのに……。弁護士さんからは、『裁判になったら、夫はあなたの貯金も財産分与で半分よこせと言い出しかねない。もう10万円で手を打ちなさい、今しかない!』と背中を押されました」

結果、3回目の調停で、夫が「10万円で離婚に応じる」と言い、2022年1月に離婚が成立した。

「どうして被害を受けていた私のほうがお金を払わないといけないのかと思いましたが、弁護士さんからは『お金で時間を買うと思って』と言われました。10万円で済んで、今は良かったのかなと思っています」

2回目の調停のとき、どうして急に夫が態度を変えたのか、後で西山さんと弁護士とで話したところ、「他にターゲットの女性を見つけたか、裁判で勝てる見込みがないとわかったかのどちらかでは?」と弁護士。西山さんは、「理不尽ですけど、モラハラ離婚ではありうる話だと思います」とうなずいた。

西山家のタブー

筆者は、家庭にタブーが生まれるとき、「短絡的思考」「断絶・孤立」「羞恥心」の3つがそろうと考えている。

西山さんは、夫と付き合っていた頃、そのモラハラ気質に何度か気付いていたにもかかわらず、目をそらしてしまった。これは、西山さん自身が再婚を急いだために生じたことで、いわば「短絡的思考」と言わざるを得ない。

やがて結婚生活が始まると、まもなく強烈なモラハラを受ける日々が訪れた。モラハラ夫は容赦なく西山さんの尊厳を踏みにじり、自己肯定感を落とすことで、「自分が悪いのだから」「自分さえ改めれば」と思考させ、外部との接触を断絶させる。

さらに西山さん自身、「こんな男と結婚してしまった自分」「働かないヒモ男の言いなりになって養っている自分」を恥じるあまり、友人や両親に夫のことを相談することさえ、しばらくははばかられていたと話す。

「悩んでいましたが、恥ずかしくて相談できなかったですね。いつか夫の暴言がなくなり、穏やかで幸せな家庭を築けると信じていました……」

現在、西山さんは、中学3年生の息子と2人、アパートで平和に暮らしている。

「今でも時々モラハラを受けたことを思い出し、嫌な気分になります。息子が転校したくないと言い、今も夫の家と同じ学区に住んでいるので、夫に会わないように、買い物は遠くの店へ行っています。夫と似た人を見かけると、本当に心臓が止まりそうになります。経済的には、私が夫を養っていたので、あまり変わりはありません。弁護士費用や引っ越し代は痛かったですが、人生の勉強代だと思っています」

最も安らげる場所であるはずの家庭内で、家族がお互いに言いたいことを言い合えないのは、やはり異常な状況だ。タブーの芽は、生じたときにすぐに摘み取れたら良いが、気付かなかったり目をそらしてしまったりして、根が深くまで食い込んでしまうと、取り除くのは困難だ。傷を浅く済ませるコツはできるだけ早く対処することだろう。

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