ある家庭では、ひきこもりの子供を「いない存在」として扱う。ある家庭では、夫の暴力支配が近所に知られないように、家族全員がひた隠しにする。限られた人間しか出入りしない「家庭」という密室では、しばしばタブーが生まれ、誰にも触れられないまま長い年月が過ぎるケースも少なくない。そんな「家庭のタブー」はなぜ生じるのか。どんな家庭にタブーは生まれるのか。具体事例からその成り立ちを探り、発生を防ぐ方法や生じたタブーを破る術を模索したい。
今回は、再婚した男性のモラハラに耐えかねて、息子を連れて逃げた現在40代の女性の事例を紹介する。彼女の家庭のタブーはいつ、どのように生じたのか、そしてどのようにして逃れることができたのだろうか――。
夫の借金で離婚
西日本在住の西山あすかさん(仮名・40代)は、商社マンの父親と専業主婦の母親との間に生まれ、5歳上の姉がいる。
大学を卒業し、IT系の企業の事務職に就いたが、30歳を過ぎて物流系の会社に転職。そこで最初の夫となる3歳年下の男性に出会った。1年の交際期間を経て、妊娠をきっかけに34歳で結婚。35歳のときに息子を出産した。
男性は西山さんとの交際中に独立し、ヘルスケア関連の小さな会社を始めていた。西山さんは不安を感じたが、夫は「資金は十分にあり、事業はうまくいっている」と言っていたため、信じていた。
ところがその2年後、夫に1000万円以上の借金が発覚。会社が深刻な経営不振に陥っていたのだ。夫に「今後借金はもっと増えるかもしれない」と言われ、西山さんは「お金に苦労したくない」と思った西山さんは、離婚を決意。2歳の息子を連れて家を出て、実家に戻った。
借金苦にあえぐ夫に養育費を要求することは難しく、西山さんは実家に頼りながらも、たった一人で幼い息子を育てなければならなかった。
「借金があると聞いた瞬間、愛情はなくなり、巻き込んでほしくなかった一心で別れました。今となっては、別れてよかったと思います。息子が生まれたとき、喜んでくれましたが、妊娠を伝えたときは、『本当に俺の子なのかな?』など、勢いに任せた暴言がありましたから……。私はもともと彼を、それほど愛していなかったのかもしれません」
離婚後、元夫との交流は完全に途絶え、息子との面会も一度もしていない。