現在40代の男性の父親は約10年前、70歳になる頃から胸が苦しくなる自覚症状があったが、大の病院・医者嫌いで、症状が悪化しても診察を受けたがらない。一人息子の男性は母親の要請に応じて、父親を説得するが、頑として受け付けない。結局、適切な処置を受けることなく他界してしまった――。
黒い背景に塩で描かれた心電図
写真=iStock.com/Andrei Berezovskii
※写真はイメージです
この連載では、「シングル介護」の事例を紹介していく。「シングル介護」とは、主に未婚者や、配偶者と離婚や死別した人などが、兄弟姉妹がいるいないにかかわらず、介護を1人で担っているケースを指す。その当事者をめぐる状況は過酷だ。「一線を越えそうになる」という声もたびたび耳にしてきた。なぜそんな危機的状況が生まれるのか。私の取材事例を通じて、社会に警鐘を鳴らしていきたい。

生い立ちと結婚

関東在住の石黒士郎さん(40代・既婚)は、製造業に従事する父親と、パートで働く母親の元に一人っ子として生まれた。両親は2人とも東北から関東に出てきて、職場で出会い、結婚。母親は父親より6歳年上の姉さん女房だった。

4人きょうだいの末っ子だった父親は運動神経が良く、石黒さんが中学校に上がるまで野球と柔道を教えてくれた。6人きょうだいの長女だった母親はしっかりした働き者で、60歳になるまでずっとパートで働いていた。

「両親からは双方の不満ばかり聞かされていたので、不仲だと思っていましたが、よく一緒に散歩などをしていたので、本当は仲が良かったのかもと最近考えるようになりました。高校以降、私は親の元を離れてしまったので、寂しい思いをさせたと思います」

高校を卒業すると、石黒さんは第一希望の大学に不合格。一浪して第一希望の大学に入学した。そして、大学1年の時に始めた飲食店のアルバイト先で、短大に通う女性と出会う。後に妻となる同い年のこの女性と数カ月後に交際をスタート。大学を卒業した石黒さんは、福祉系の仕事に就き、妻は、短大を出て電機メーカーで働いていた。5年後、2人が25歳になる年に結婚し、妻は専業主婦となった。