現在60代の男性は37歳の時に3歳下の女性と出会い、事実婚状態に。しばらくは穏やかな日々が流れたが、妻が55歳のときにアルツハイマー型若年性認知症と診断された。卵パックを連日買ってきたり、夫が歯磨き中に別人格になって実弟への罵詈雑言を始めたり。豹変してしまった妻に夫はうろたえながらも、懸命にケアする――。(前編/全2回)
夜の集合住宅
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この連載では、「シングル介護」の事例を紹介していく。「シングル介護」とは、主に未婚者や、配偶者と離婚や死別した人などが、兄弟姉妹がいるいないに関わらず、介護を1人で担っているケースを指す。その当事者をめぐる状況は過酷だ。「一線を越えそうになる」という声もたびたび耳にしてきた。なぜそんな危機的状況が生まれるのか。私の取材事例を通じて、社会に警鐘を鳴らしていきたい。

ボーリング大会での出会い

関東在住の河津敬郎さん(60代・既婚・仮名)は一人っ子だ。

外資系企業に勤める父親が29歳、専業主婦の母親が33歳の時に生まれた。国語と社会が得意で、理数系が苦手だった河津さんは、文系の大学を卒業すると、出版社に就職。

仕事のキャリアを積み上げること十数年。1998年、河津さんが37歳のとき、友人が幹事を務めるボーリング大会に参加したところ、後に妻となる商社勤務で3歳年下の女性と出会い、好きな音楽の話で意気投合。河津さんは、九州出身である妻の明るい性格、また何事にも一生懸命な姿に惹かれた。

翌年早々から交際をスタートし、約半年後には一緒に暮らし始める。

一方、妻は、36歳の父親、34歳の母親の元に、長女として誕生。果樹農家を営んでいた両親の間には、3年後に妹、8年後に弟が生まれた。長女である妻は、子供の頃から家の手伝いやきょうだいの面倒をみる働き者で、頑張り屋だったようだ。高校時代は15kmほどの起伏のある道のりを、雨の日も風の日も3年間、自転車通学していたという。

河津さん夫婦は、長い間事実婚状態だった。妻が「夫婦別姓がいい」「式を挙げたくない」などと主張したためだ。

それでも2人は、休みの日には近場で買物をしたり国内外に旅行へ出かけたりするなど、仲の良い夫婦生活を16年間送った。