いわゆる「宗教二世」問題に苦しむのは、旧統一教会関係者だけではない。現在、40代男性は、小1の時に両親がある新興宗教に入信。どんどんのめり込み、男性も信者勧誘(奉仕)活動に駆り出され「信者でない人はハルマゲドンで神に滅ぼされる」と教えられた。長時間にわたる信者のトップの話に退屈した顔をすると、給湯室でお仕置き。お尻の右側には今もお仕置きという名の虐待による傷が残っている――。(前編/全2回)
暗がりで泣いている男の子
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ある家庭では、ひきこもりの子供を「いない存在」として扱う。ある家庭では、夫の暴力支配が近所に知られないように、家族全員がひた隠しにする。限られた人間しか出入りしない「家庭」という密室では、しばしばタブーが生まれ、誰にも触れられないまま長い年月が過ぎるケースも少なくない。そんな「家庭のタブー」はなぜ生じるのか。どんな家庭にタブーは生まれるのか。具体事例からその成り立ちを探り、発生を防ぐ方法や生じたタブーを破る術を模索したい。

今回は、小学1年生の時に、両親が「新興宗教」に入信したという現在40代の男性の事例を紹介する。彼の家庭のタブーはいつ、どのように生じたのだろうか。タブーのはびこる家庭という密室から、彼はどのように逃れたのだろうか――。

小学校1年生の時に両親が「新興宗教」に入った

中部地方在住の桜木瞬さん(仮名・40代)は、自営業を営む父親(当時29歳)と専業主婦の母親(当時25歳)の間に生まれた。

冗談を言って家族を笑わせる父親と、優しい母親の夫婦仲は良く、2歳上の姉を含む家族4人で地域のイベントに参加したり、近くに住む父方の祖父母と温泉旅行に行ったり、笑顔の絶えない家庭だった。

ところが、桜木さんが小学校に入学した年の秋、桜木さんの家に2人組の女性がやってきたことがきっかけで、徐々に生活が脅かされていく。女性たちはある新興宗教の信者だと名乗った。

自営業者の父親と専業主婦の母親は、最初は玄関で少し話を聞いただけだったが、2人組は、約1週間後にまたやってきた。

「興味がありそうだった人の家に目をつけておき、時間を置いて再勧誘に来たのでしょう。父は追い返したのですが、2人組の穏やかな雰囲気に興味を持ち、次第に話を聞くようになっていったようでした」

桜木さんはこう振り返る。

両親は、みるみるうちに話に引き込まれていった。最初は女性2人から自宅で話を聞くだけだったたが、2カ月後には男性が加わった。男性が両親を担当し、女性2人は桜木さんと姉を担当するようになった。

ほぼ同時に、日曜日の集会や1週間に3回の頻度で行われる活動にも参加するようになり、約3年後には、両親は正式な信者になるための儀式を受け、さらに約2年後には、父親は地域の信者たちをまとめる立場となり、最終的に地域の信者たちのトップにまで上り詰めた。

「日曜は2時間、火曜の夜は1時間、木曜の夜は2時間の集会に参加し、その他に水曜は家族だけで行う聖書の勉強が1時間。信者が来ての聖書の勉強は土曜日の夜1時間ぐらいだったと記憶しています。それ以外は勧誘活動で家から家を訪問。遊ぶ時間なんてなかったですね」