現在30代の女性の両親は“ワンナイトのできちゃった結婚”をしたが、すぐ不仲に。父親は経営する居酒屋店で寝泊まりして家に帰らない一方、母親は女性が幼い頃からカルト宗教に入信し、育児は半ばほったらかしで日夜、修行。「教団と縁を切るため」と嘘をついて親族からお金を借り、そのまま教団に寄付する。女性は教団施設に連れていかれることも多く、蚊も殺してはいけないという教えにも従わされた――。(前編/全2回)
暗い部屋でひざを抱えて顔を伏せている少女
写真=iStock.com/AHMET YARALI
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ある家庭では、ひきこもりの子供を「いない存在」として扱う。ある家庭では、夫の暴力支配が近所に知られないように、家族全員がひた隠しにする。限られた人間しか出入りしない「家庭」という密室では、しばしばタブーが生まれ、誰にも触れられないまま長い年月が過ぎるケースも少なくない。そんな「家庭のタブー」はなぜ生じるのか。どんな家庭にタブーは生まれるのか。具体事例からその成り立ちを探り、発生を防ぐ方法や生じたタブーを破るすべを模索したい。

今回は、幼い頃からカルト宗教に入信した母親に振り回され続けた現在40代の女性の事例を紹介する。彼女の家庭のタブーはいつ、どのように生じたのだろうか。タブーのはびこる家庭という密室から、彼女はどのように逃れたのだろうか――。

ワンナイトのできちゃった結婚

関西地方在住の時任和美さん(仮名・30代・既婚)は、居酒屋を営む父親と、なかなか定職に就かず転々としていた母親の元に生まれた。両親は、当時40歳の父親の店に、30歳の母親が客として来たことで出会い、交際期間ゼロで妊娠。いわゆる“ワンナイトのできちゃった結婚”だった。

行きずりの恋は長続きせず、時任さんが生まれたとき、すでに両親の仲は冷え切っていた。2歳下に妹が生まれると、父親は自宅に寄り付かなくなり、自分の店に寝泊まりするように。帰宅するのは、母親が仕事などで不在な時くらいだった。

そして時任さんが3歳になった頃、知人の紹介で、母親はある宗教に入信。後に時任さんは母方の祖母から、「あんたのお父さんは自分の店が大好きで、育児中のお母さんを放ったらかしにしたから、孤独感に苛まれてお母さんは宗教に走ったんだよ」と聞かされた。

実は時任さんの父方の祖母も若い頃に別の宗教にハマり、その後、宗教に染まっていく妻との生活が嫌になった父方の祖父は、妻や子供を置いて行方不明に。そんな家庭で育った父親は、宗教に嫌悪感を持っていたため、母親の勧誘にはなびかないどころか、ますます自宅に寄り付かなくなった。