教団の教え
教団では日常生活の中でも、教えにのっとったさまざまな制約があり、時任さんは常にその制約に縛られながら子供時代を過ごしていた。
「端から見るとなぜ? と疑問に思われる制約も多く、友達から突っ込まれることもたびたびあり、言い訳しながら過ごしていたことを覚えています。教団では嘘をつくことも悪いこととされていたので、ごまかすための嘘もつけませんでした」
教団では「悪い情報が入る」と言って、テレビや漫画、街で見かける広告やお菓子のパッケージですら悪いものとされていた。母親はテレビを見ることを制限していたため、時任さんたちは、テレビから入ってくる情報は全く知らずに育つ。友達からは、「なんで知らないの?」と驚かれることも多く、話についていけないことも日常茶飯事。
教団では、生活の中で楽しみを求めること自体が悪いことだとされていた。そのため、遊園地や子供向けのイベント、おいしいものを食べに行くことも教えに背くこととされ、母親は連れて行ってくれなかった。
また、教団では生き物を殺すことや傷つけることも許されず、夏場に「蚊が止まっている!」と友達が教えてくれても、それを叩くことができない。殺虫剤も使うことができなかったため、ゴキブリも殺すことができなかった。
そして、「殺すことでしか得られない肉や魚を摂ることは控えるように」と言われ、教団のイベントなどで出される食事には肉や魚は使われておらず、野菜を煮ただけのスープや大豆ミールの唐揚げなどが頻繁に登場。
中には肉や魚が入った給食を子供に食べさせないために、毎日お弁当を持たせる信者もいたが、時任さんの母親はそこまで気を配る余裕がなかった。肉や魚の代わりにタンパク源となる大豆ミールを教団から購入していたこともあったが、割高なうえ、母親自身あまり好きではなかったようで、長続きしなった。
教団では、動物たちが解体されて肉になっていく、「畜産動物の一生」というビデオを見せられたことも。まだ幼い時任さんたちには衝撃的で、「しばらくお肉はいらない」という気持ちにさせられた。
「教団では、食事に楽しみを求めることは悪いことだとされており、食事は、“自分が食べるためではなく、教祖に捧げるため、自分が窓口になって食べるためのものだ“と教えられました。食事の前にも手を合わせて呪文を唱え、数分間黙祷する時間があります。母はそれを祖父母の家や外食中にも行うので、いつもヒヤヒヤしました」
この頃、時任さんはこんな噂を聞いた。
「昔、教団のセミナーに、野菜スープが入った2つの鍋が置いてあった。信者たちは自由におかわりしていたが、片方の鍋だけ『おいしい』と好評で、どんどんなくなっていく。最後、その鍋の底からネズミの死骸が見つかった。紛れ込んだネズミから出た動物性のだしがおいしくさせていたのだ」
時任さんは、しばらく教団のものは食べなくなった。
さらに、教団内では白や紫は高い世界の色とされており、服や持ち物はなるべく白を選ぶようにと言われていた。逆に、黒は地獄の色と言われ、ほとんど着なかった。
少し成長すると、短いスカートや肩の出る服も、「男性の性欲を刺激する」と言われて規制。髪の毛も「執着の塊だ」とされ、短く切らねばならない。「胸が大きい女性は執着が強い女性だ」と言われ、同性から注意された。
時任さんたちは、母親や周囲の大人が規制を守っているため、それが普通だと思い込み、教団からは、「この制約を守ることができない人たちがかわいそうなのだ」と教え込まれていた。(以下、後編へ続く)