義父との同居
古道文子さん(50代・仮名)は現在、中部地方在住で、夫(59歳)と暮らしている。子ども2人(30歳と28歳)は自立して他県で生活しており、自宅近くには義実家がある。
2023年の夏、認知症で要介護3の義母(87歳)が介護老人保健施設に入所した後、90歳の義父は独居状態になった。
陶器関係の仕事をしていた義父は、2018年に85歳で引退した。2021年に胃がんが見つかり、がんの摘出手術を受けた後、約1カ月入院したが、現在は薬を飲むこともなく、元気に過ごしている。
だが、自営業者だった義両親には貯金はほとんどなく、ひと月に2人で11万円の国民年金生活。しかも、義両親の家は義両親のものだが、土地は借地だった。
義母が施設に入ってからは、介護老人保健施設や特養の費用が月10万円ほどかかるようになり、残りは1万円。たった1万円では生活していけないため、不足分は、長男である夫が負担していた。
しかし昨年、「このままでは自分たちの老後の蓄えがなくなる」という危機感を覚えた古道さん夫婦は、約24年前に建てた自分たちが住む家を売り、義父の家で同居することを決める。
ところが、まもなく古道さんは、同居を後悔した。
「いざ住むために義実家を片付け始めると、出てくるわ出てくるわゴミの山! 義母の嫁入り道具の布団などをはじめとする不用品が、押し入れやクローゼットからわんさか出てきました。戦争を経験している人は『もったいない精神』が強くて物を捨てられないうえに、昭和時代は引き出物や中元・歳暮の習慣が盛んで、物をいただく機会が多くありました。途中で引っ越しでもしていれば不用品を処分する機会もあったのでしょうが、義両親はこの家に60年間住み続けているため、彼らにとってはどれもこれも思い出の品物で『取っておけば何かの時に使える』だったんでしょうね……」
義親のものだけではない。義姉が履けなくなったスケート靴やヒールの高いブーツ、壊れたギターや大きなやかん、陶器や漆器など、とっくの昔に処分していてもいいはずの物もあった。
市の処分場に車2台で数十回、3日かけて不用品を処分した。
その後、押し入れとクローゼットのカビと埃と格闘。夫によると、「もともと両親には不用品を処分する概念がなかったかも」という。
「むき出しの床などには埃がたまっていないので、ある程度の掃除はしていたと思いますし、高齢者だけの生活ではそんなに散らかりません。ただ義母が認知症になってからは掃除できていなかったのだと思います。認知症になってからは仕方ないにしても、元気な頃に不用品は捨ててほしかったですね……。軍手・マスクは必須で、こっちが病気になりそうでしたが、掃除をしても、シロアリを駆除しても、ムカデやゴキブリに悩まされ、ある意味トラウマになりました……」
古道さんは、義実家での同居を心底後悔し、今すぐ出ていきたかったが、シロアリを駆除費用や畳の新調などコストをかけたため、お金の元をとる程度は住まざるをえない。せめて自分は、「子どもに負担をかけないために、元気なうちに不用品を処分しよう」と心に誓った。