日本に住む中国人の数は年々増えており、出入国在留管理庁の統計では23年末時点で約82万2000人を超えた。中国の事情に詳しいジャーナリストの中島恵さんは「昨今の在日中国人は帰省をせず、日本で楽しくお正月を過ごす人も多い。日本語が話せなくても衣食住が完結する『中国経済圏』の中で暮らしているからだ」という――。

「留学」でも「就職」目的でもない中国人

近年、日本で急速に中国人が増えているのをご存じだろうか。出入国在留管理庁の統計によると、2010年の在日中国人は約68万7000人だったが、23年には約82万2000人にまで増加した。在住者の資格は「永住」や「留学」ビザ、その他、会社員が取得するビザの保有者が全体の約7割を占めている。

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だが、昨今、増えているのは「留学」でも「就職」でもない人々だ。彼らは「経営・管理」などのビザを取得して来日しているが、彼らの場合、従来の在日中国人とは大きく異なり、日本語がほとんどできない。日本に対する「興味」「憧れ」「愛着」などはなく、ただ「中国から脱出したい」という理由で、日本にやってきたからだ。

しかし、彼らと話してみると、意外にも「日本語が話せなくて困った」という話はあまり聞かない。また、「日本語が話せないから日本移住を躊躇した」こともないようだ。かつてなら、まず中国の学校で日本語を学んだり、来日後に日本語学校で日本語を学んだりしてから日本社会に入っていくという人が多かったが、現在では、そうした「手順」を踏まないで、いきなり日本移住する。

翻訳アプリとSNSがあれば困らない

しかも、その後も、日本で生活するのに、日本語を学ぼうというモチベーションは低い。「日本語が話せない」ことは移住のハードルにはならないようなのだが、その理由は何なのか。

まず、日本は漢字を使用する、中国以外では唯一の国で、漢字を見ればだいたいの意味を理解することができるという点が大きい。町を歩いていても、看板や標識も漢字が多いのでたいていのことは推測できる。それはもちろんずっと以前からだったが、最近では、誰かと会話しなければならない場面でも、スマホに翻訳アプリを入れておけばいいし、タクシーに乗って行き先を説明することも可能だ。漢字だけで筆談もできる。この点は欧米人にはできないので、中国人ならではの利点だ。

次に、在日中国人の手助けがあることが非常に大きい。近年の移住者を除いたとしても、在日中国人は70万人以上おり、彼らが日本での経験を活かし、案内役となってくれる。それを可能にしてくれるのが中国のSNSだ。

以前も、在日中国人の友人がいればその人を頼っていたことは同じだったが、SNSの時代になって以降、見ず知らずの同胞(中国人)とのやりとりも可能になった。それが「日本語が話せなくても」まったく困らないことを後押ししている。