賭け事が好きな父親
古道文子さん(50代・仮名)は現在、中部地方に住んでいる。戦中生まれの父親は中卒で福岡から大阪に出てきて印刷会社の職人として働いていた。製造系の会社に勤めていた母親が20歳くらいの頃に出会い、2人は結婚。
母親は24歳で古道さんを、27歳で弟を出産。貧しかった両親は、新しくできたばかりの市営住宅に申し込むと、当選。家族4人、2DKで暮らし始めた。
父親は職人として引き抜かれた会社で数年経験を積んだ後、営業を覚えるため転職。しかし古道さんが小4の時にその会社が倒産し、父親は家族全員を集め、こう言った。
「会社がなくなったので、自分で印刷会社を立ち上げる。仕事の拠点(事務所)が決まるまで、家に電話がかかってくるから、その時はポケベルでお父さんを呼び出してくれ」
古道さんたち姉弟は、電話を取るのも父親のポケベルを鳴らすのも面白くて、遊び感覚で父親に協力した。仕事も遊びも全力で取り組む父親は、子どもとの遊びも賭け事にして楽しんだ。
「トランプや花札など、必ずといっていいほど『10円持ってこい』とお金をかけて盛り上げます。少額とはいえ、お金をかけると本気になるし、負けるとすごく悔しかったです」
日曜日には子どもたちを近所の公園に連れ出してくれた。そこでも、ポケットに入っていたお金を取り出し、
「全部でいくらあるか当てたら全部やる」と言ったり、持ってきたボールを高く投げ「キャッチできたら100円やる」と言った。
「当時小学生だった私のお小遣いは1日50円ほどでしたので、ボールをキャッチするだけで2日分のお小遣いが入るわけです。でも、100円に胸を高鳴らせた私たち姉弟は、プレッシャーに負けてしまい誰もキャッチすることができませんでした」
母親によると、父親は新婚当初は麻雀にハマり、悪い人と付き合っていたこともあったという。