血管の詰まりが首と脳にある父が観念して手術

すぐに父親に電話をかけ、「一緒に病院に行こうか?」と言うと、父親は「月末に予約を入れているから、それまでは行かない」との一点張り。

「父は、『もう首を切るしかない。二度と病院から出られない』と思い込んでいました。でもだんだん体が動かなくなっていくことが怖くなったらしく、渋々手術を受けることにしたようです」

古道さんが手術の付き添いに行くと、父親の左手はグーにしたまま開かなくなってしまっていた。そして体全体が固まっていくような感覚とともに、両足が動かしづらくなっていた。そのため、一人暮らしでは着替えることも入浴することもままならず、汚れた衣服や下着のまま1カ月近く過ごしていたようだ。

6時間に及ぶ手術は成功。1週間後に面会に行くと、リハビリの甲斐あって、こわばった体は多少動くようになり、歩行器を使えば歩けるようにまで回復していた。

ただ、左手のほうは、動かなくなってから放置していた時間が長かったため、「おそらくもう元には戻らない」という。

「医師には、『手に麻痺が出始めたときに手術を怖がらずに受けていれば、後遺症はもっと軽かったはず』と言われました。血管が詰まる=倒れるとばかり思っていましたから、血管が詰まることで体が動かなくなっていくということは、父も私も実際に目の当たりにするまで想像もできませんでした……。今は、体が動かなくなることは、倒れることと同じくらい怖いことだと感じているので、正しく理解できていれば、もっと強く手術を勧めることができたかもしれないという後悔はあります」

筆者の父親も高血圧と糖尿病の持病があり、68歳の時に脳梗塞で倒れ、一命は取り留めたものの半身不随になり、言葉が話せなくなった。その約35日後に大腸の血管が詰まり、壊死したため亡くなった。古道さんの父親は、少し体が不自由になったものの、命に別状がなかったのは不幸中の幸いだった。

約3カ月後に父親はリハビリ病院へ転院。入院中、医師や看護師、ケアマネや本人を交えて退院後の生活を確認し、介護ベッドや玄関の手すり、手押し車などを揃え、週2回のヘルパーとデイサービスを契約すると、約2カ月半後に退院した。