※本稿は、齋藤孝『頭のいい人の夜に学ぶ習慣』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。
「知識の習得」には夜が適している
「学び」や「知的生産」の核となるのは、いかに情報を知識として定着させ、思考を深められるかになります。その基本は「インプット」にあります。
まったく「インプット」をせずに知的生産を続けるのは、難しいものがあります。燃料を入れずに車を動かすようなものです。思考を深めるためには、「知識や教養」という燃料が必要になります。
知識の習得には、夜が適しています。
昼間に会社で仕事をしていたとすると、まとめて知識を習得するのはなかなか難しいでしょう。これは学生でも同じです。
夏目漱石が『道楽と職業』という講演の中で、「道楽というものは、自分のためにすること。そして職業というものは、人のためにすること」という主旨のことを語っています。
夏目漱石が語った道楽と職業の違い
職業というものは要するに人のためにするものだという事に、どうしても根本義を置かなければなりません。人のためにする結果が己のためになるのだから、元はどうしても他人本位である。すでに他人本位であるからには種類の選択分量の多少すべて他を目安にして働かなければならない。要するに取捨興廃の権威共に自己の手中にはない事になる。
したがって自分が最上と思う製作を世間に勧めて世間はいっこう顧みなかったり自分は心持が好くないので休みたくても世間は平日のごとく要求を恣にしたりすべて己を曲げて人に従わなくては商売にはならない。
(中略)
いやしくも道楽である間は自分に勝手な仕事を自分の適宜な分量でやるのだから面白いに違ないが、その道楽が職業と変化する刹那に今まで自己にあった権威が突然他人の手に移るから快楽がたちまち苦痛になるのはやむをえない。
『夏目漱石全集10』所収(ちくま文庫)
つまり、職業とは、人のためにサービスをしてお金をもらうことだと言っているのです。
道楽とは自分のためにやるもの。たとえば、作家が何かものを書くにしても、自分のために書いているのであれば、漱石に言わせればそれは道楽ということになります。