夫は言った「離婚はしない。婚姻費用を請求します」

夫は車で、西山さんと息子が暮らすアパートの近くにある公園まで来ていた。西山さんがICレコーダーを用意して公園に向かうと、夫は「車の中で話そう」と言って促す。仕方なく西山さんが乗り込むと、

「離婚はしない。婚姻費用を請求します」と夫は言い、やおらメモを取り出し、こう言い放った。

ボイスレコーダーの録音ボタン
写真=iStock.com/Tomasz Śmigla
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「俺の作った食事、469回。お前が爪を立ててきた回数、3回。お前が怒って大きい声を出した回数、134回……以上のことから、離婚には応じない! 婚姻費用に加え、慰謝料300万も請求します!」

離婚しないと言いつつ、婚姻費用や慰謝料を請求……。支離滅裂な言葉に恐ろしくなった西山さんは、すぐに車のドアを開けて逃げ出し、アパートに帰ると、震える手で母親に電話。「やっぱり異常な人だった! 弁護士さん頼むわ!」と話し、友人数人にも電話した。

その日のことを、西山さんはこう振り返る。

「怖かったですね……。目がギラギラしていて、恐ろしい顔をしていました。こんな人をどうして好きになって、結婚までしてしまったんだろう。本当に情けない働かないヒモ男、最低な男だなと心底あきれました。いい思い出もあったのでしょうが、この時点で全て吹き飛びました」

2021年8月、母親の知り合いから紹介された弁護士に電話し、本格的に離婚に踏み出した。

離婚調停で夫は「妻がモラハラとDVをしてきた」と

9月。弁護士は、まず西山さんの話をよく聞いた上で、「以後は夫と連絡を取らないように」と言い、調停を申し立てた。無職でお金のない夫は弁護士を立てなかったが、1回目の調停で夫は欠席。しかし夫は、自分の言い分をレポート用紙2枚ほどにまとめて提出していた。

その内容は、こうだ。

「自分は100%悪くない。妻がモラハラとDVをしてきたため、自分は病気になり、皮膚は傷だらけ。胃は痛い。めまいもあるため車の運転もできないから、治療費とタクシー代と生活費をくれ。慰謝料として300万欲しいけれど、子どもがいることを考えてやって、慰謝料は50万でよしとしてやる。それ以下では絶対譲らない」

これを受けて弁護士は、「こんな異常な人は、50万円を払ってでも早く縁を切ったほうがいいのでは?」と言ったが、西山さんはどうしても悔しくて、50万円を払う気になれない。そこで、夫の訴え一つひとつに、LINEに残っているメッセージや録音などを添えて、説明した。

すると弁護士は、「それは納得いかないね。あなたが納得できるように戦おう」と言い、「ただ、このタイプの男は、お金を渡さないと譲らないだろうから、出せる金額を決めておこう」と提案。西山さんと弁護士は、10万円と決めた。