気温が下がり、日照時間が短くなると増える「冬季うつ」。産業医で精神科医の井上智介さんは「一般的なうつとは反対に、冬季うつは過食と過眠の症状が特徴。春になると症状がおさまることが多いが、本格的なうつに移行することがあるので注意が必要です」という――。
ベッドから出られずに葛藤する女性
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体がエネルギーを蓄えようとする

秋から冬に入る気温差の激しいシーズンは、自律神経が乱れやすくなります。人間は、常に体温をキープし、調整していかなければならないので、気温差が激しくなるほど自律神経が活発に働き、その分体に負担がかかり、疲労もたまるのです。

また冬になると、人間の体もほとんどの動物と同じように、厳しい寒さを乗り越えるための生理的な反応として、エネルギーを蓄える行動に移ります。眠気が強くなったり、カロリーの高いものが食べたくなったりするのはこのためです。

さらに冬は日照時間が短くなるので、意欲を高めたりする作用があり「幸せホルモン」とも呼ばれる脳内の神経伝達物質、セロトニンが作られにくくなってきます。日光はセロトニンの分泌を促す作用があるからです。そのため体内時計が乱れて、朝シャキッと起きられない、何事にも意欲が出ない、気分が落ち込み、ふさぎがちになる……といったことが起こります。

こうした変化は誰にでも起こりますが、症状がひどくなり、仕事や家事など日常生活に支障が出てしまうときは、冬季うつを疑うことになります。

「睡眠」と「食欲」に特徴

冬季うつは、正式には「反復性うつ病性障害」の一つである「季節性感情障害(SAD)」と呼ばれます。「うつ」というぐらいですから、一般のうつ病と同じように、気分が落ち込む、疲れやすい、何をするにもおっくう、今まで楽しめていた趣味や気分転換が楽しめない、思考力や集中力がにぶる、といった症状が出てきます。

ただし一般のうつの症状と明らかに違うのが「睡眠」と「食事」です。うつ病は眠れない、寝つきが悪いといった「不眠」の訴えが多く見られますが、冬季うつは、冬になると寝過ぎるという典型的な症状に輪をかけて、さらに寝てしまう「過眠」といった症状があらわれます。患者さんの中にも、夜8時や9時ごろから眠くなって寝てしまい、朝になってもなかなか起きられないという方がいらっしゃいます。

また、一般的なうつだと食欲がなくなって体重が落ちることが多いですが、冬季うつは、カロリーの高いものが食べたくなる、炭水化物を食べ過ぎるなど、過食になり、体重が増える傾向があります。