お酒を飲むと人が変わり、家族に対してキレて暴言を吐いたり暴力をふるったりする。産業医で精神科医の井上智介さんは「コロナ禍でリモートワークが広がり、家でお酒を飲み過ぎてトラブルを起こすという相談が急増している。特に家族は実害を受け、深い悩みを抱えて苦しんでいる」という――。
ジョッキに入ったビール
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在宅ワークで飲酒トラブルの相談が増えている

コロナ禍でリモートワークが広がり、お酒が好きな人は、早い時間から夜遅くまで、好きな時に家で飲めるようになりました。そのためか、適量を超えて飲んでしまうことが増え、「飲むと人が変わり、暴言を吐いたり暴力をふるったりする」という家族に悩んで疲れ果てて私のところに相談に来るというケースが最近特に増えています。また、リモートワークの残業時間中に、飲酒をしながら仕事をしている社員がいて、ほかの人とのトラブルになって困っているといった、今までになかったような相談も出てきています。

夕方早くから飲み始めて、食事でさらに酒が進む。酔っぱらってだんだん目が座ってきて、スイッチが入ってしまい、家族に向かって「お前はダメな人間だ」「子どものしつけがなっていない」などとなじり始める。ささいなことでキレて怒り出し、暴言を吐いたりモノを壊したり、暴力をふるったりすることもあります。そもそもお酒には、気を大きくする作用があるので、飲むと万能感が生まれ、理性が働かなくなってしまうのです。

酔っている人には何を言っても届かない

飲んでキレてしまう、暴言を吐いたり暴力をふるってしまう家族に、周りはつい「迷惑だからやめて」「飲み過ぎだから、もうお酒はやめて」と言いたくなりますが、本人の耳にはまったく届きません。もともと人は自分の行動を制限されたり、コントロールされたりするとイヤになりますから、お酒でタガが外れている人にこうした苦言を呈しても、火に油を注ぐばかりで、さらなるトラブルに発展してしまいます。危険なNG対応だと言えるでしょう。

また、家族がこうした問題行動を起こすと、「私が何とかしなくては」と頑張ってしまう人も多いですが、それもやめた方がいいでしょう。

例えば、二日酔いがひどくて会社を休むときに、本人の代わりに家族が会社に連絡を入れる、といったことです。これは本人がやるべきです。自分が招いたことですから、自分で責任を取らなくてはなりません。お酒の失敗の後始末は自分でしないと、ますます「お酒を飲み過ぎる」ということに対して抑制が利かなくなります。

また、「家にお酒がないと怒ってケンカになるから」と、家族が準備しておくのもよくありません。これではいつまでたっても飲む量は減りません。

飲酒の問題に限りませんが、やはり家族であっても、それが相手の問題なのか、自分の問題なのか、その境界線はしっかり引いておかなければ、相手に振り回されて共倒れになりかねません。