ささいなミスをあげつらう、昔の失敗を蒸し返す……。「指導」の名の下に部下をネチネチと責める上司には、どう対応すればいいのか。産業医で精神科医の井上智介さんは「最近、暴力や大声で罵倒するなどのわかりやすいパワハラに代わって、ネチネチ型のハラスメントが増えている。しかし、こうした上司の“ネチネチ責め”に正面から反論するのはお勧めしない」という――。
上司に非難される部下
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「ネチネチ型」のハラスメントが増えている

最近のハラスメントは、「ネチネチ型」が増えています。もちろん、殴ったり蹴ったり、大声で罵倒したりといったハラスメントもゼロではありませんが、そんなことをしたら自分の社会人人生が終わってしまうことをわかっている人も多いので、減ってきているように思います。一方で、「指導」という大義名分の下、ネチネチと部下を攻撃する上司が増えているのです。

たとえばネチネチ上司は、こんな言い方で部下を責めます。

「なんでこんな簡単なこともできないのかな」
「あなたがミスすると、周りからは私の指導力が低いと思われるんだよね」
「君は今回だけじゃなく、このあいだも○○でミスをしたし、その前は○○を間違っていた。あの時にも似たようなことがあったし……」

ネチネチ上司は、「ページのフォントが合っていない」「段落がずれている」など、その場で直せば済むだけの細かいミスについても、「だいたい君はいつも詰めが甘い。こうした細かいところに気を配れないから仕事ができないんだ。先週も、あやうくお客様のアポの時間を間違えそうになったじゃないか……」など、ことあるごとに過去のミスを蒸し返したりします。

また、1つのミスから文脈をどんどん広げて、「仕事ができない」と決めつけて能力を否定したり、「そういう性格だからお客さんにかわいがられないんだよ」と人格を否定するなど、ネチネチと責め立てます。たくさんの人が出席する会議で、重箱の隅をつつくようなミスを指摘したり、答えられそうにない質問を繰り返してプレッシャーを与えたりすることもあります。

ただ、こういったネチネチ行為がパワハラに当たるかというと、難しいところです。グレーゾーンではありますが、指導の延長線上にあるため、なかなかパワハラとは判定されにくいのです。

「ネチネチ上司」が抱えるコンプレックス

部下をネチネチ責める上司の共通点は、劣等感やコンプレックスを抱えていることです。

だからこそ、部下など、社会的立場が下の人間が自分より上にくることは、絶対に許すことができないのです。このため、「お前は私より劣っている」「自分より下なんだ」ということを明らかにするために、細かいミスをあげつらって責め立て、攻撃します。そして、「自分よりも下なんだ。劣っているんだ」というレッテルを貼ることで、自分の自尊心をなんとか保っているのです。