親に財産のことは聞きづらい。そう思って、後回しにしている人は多いだろう。ファイナンシャルプランナーの高山一恵さんは「相談を受けた40代の女性は父親が亡くなるまで“実家は裕福”と思っていたのですが、実際は正反対。年老いた母親の面倒と父親の借金を一人で背負うことになりました」という――。

※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんのもとに寄せられた相談内容をもとに、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。

頭を抱えてうつむく女性のシルエット
写真=iStock.com/kieferpix
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自分の家は“裕福”と信じて疑わなかった41歳女性

親の資産状況は永遠に謎――。自分が中年になっても、そんな方は少なくないと思います。親世代も「子どもに面倒をかけたくない」という方が多く、互いに情報共有をしないまま見送ることになってしまい、良くも悪くも驚いてしまうパターンがあとを絶ちません。

今回は、親の死で発覚した「負の遺産」についてお伝えしていきたいと思います。

谷川菜穂さん(仮名/41歳)が私の元にやってきたのは、お父さまが脳梗塞で倒れた直後でした。彼女は私の友人の幼なじみで、「谷川さんちはセレブなのよ〜」と噂には聞いていましたが、お父さまが高名な弁護士だったそうです。谷川さん自身もメーカー勤務の独身、悠々自適の生活を送っているようで、お金に困る要素はなにひとつないように見えました。

「恥ずかしながら私自身、物心ついたときから、自分の家は他より裕福だとずっと思っていたんです。でも……わが家にはいま、借金しかありません」

谷川さんが語りだしたのは、知られざる実家の懐事情でした。

有名ホテルを顔パスで使えた実家の知られざる懐事情

彼女のお父さんは20代のうちに弁護士になり、起業。以来50年の間、病気で倒れる直前まで現役バリバリで活躍していました。お母さんは専業主婦で、谷川さんは小さいときからさまざまな習い事をかけもちし、小学校から名門私立の一貫校に入学。大学までエスカレーターで進学し、箱入り娘として何不自由ない暮らしを送ってきました。

実際、ご家族は都内の有名ホテルを顔パスで使えるほど恵まれた環境だったそうで、谷川さんが自分の家庭を「裕福」と感じるのも当然でしょう。塾・家庭教師もびっしりつけてくれていたこともあり、成績も優秀。就職氷河期世代で第一希望はかないませんでしたが、中堅メーカーに新卒で入社した谷川さんは、一人暮らしを満喫していました。そんな円満な一家にほころびが見えたのが、お父さんの病気です。