遠方の親族が相続トラブルに巻き込まれたとき、どうやって解決に導けばいいのか。都内に住む医療・保健ジャーナリストの西内義雄さんは、九州に暮らす義母の相続トラブルを解決した経験がある。西内さんは「義母は、子供のいない90代の叔父夫婦を献身的に介護していたが、そのことから『財産目当てじゃろが』といわれのない言葉をぶつけられるようになった」という――。(前編/全2回)
女性を責める男
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78歳の姪が90代の叔父夫婦の面倒を見る老老介護

コロナ禍になる前のこと。

九州に暮らす筆者の妻の母親、つまり私にとって義母にあたる人物は、とても優しく、おおらかな人だった。当時の年齢は78歳で、名は幸子(仮名)。84歳の義父とのふたり暮らし。少し膝の調子が悪かったものの、ある時期から同じ市内に住む90代の叔父夫婦の家に足を運ぶ回数が増えていた。

叔父夫婦にとって義母は姪にあたる。叔父夫婦には子供はおらず、体力の衰えや病気のため、訪問介護に頼る生活になっていた。親族は義母のような姪や甥が4人のみ(図表1参照)。全員同じ市内に住んでいるが、身の回りの世話などはほとんど義母がしていた。

【図表1】義母(幸子)の家系図

「叔父さんは父方、叔母さんは母方のきょうだいで、昔から私をかわいがってくれたからね。自分もいい歳になったけれど、できるうちは面倒を見てあげたいのよ」

義母はそういって頑張っていた。ところが、自分も次第に膝が悪化してきた。義父も認知力が低下しつつあり、今後の自分たちのこと、叔父夫婦のことを考えると、不安は増すばかりだった。

「義母が叔父夫婦の財産を狙っている」

そんなある日、「義母が叔父夫婦の財産を狙っている」との噂が、親族の間に流れていることを知った。もっと若ければ反論し闘うことができたかもしれないが、もうそんな元気は出てきそうにない。自分よりさらに高齢の夫も頼りにできそうにない。身内の話なので近所の仲の良い人にも相談できず、悶々とする日々が続いていた。

半年後、義母と叔父夫婦を取り巻く環境は大きく変わっていた。叔父が脳卒中で倒れ、少し麻痺が残ってしまったのだ。共に暮らす叔母も、叔父が付いていないと毎日の薬もちゃんと飲めないほど物忘れが激しくなっていた。これ以上ふたりが自宅で暮らすことは難しい状態だった。

困った義母は、叔父夫婦の訪問介護で世話になっていた担当者に助けてもらい、ふたりを市内の介護老人保健施設に緊急入所させることにした。もちろん、「噂」のこともあるので、他の親族たちにも経緯を伝えた。それでも、誰も手助けする者はなく、義母が施設入所のための身元引受人・保証人になった。

ちなみに、義母はふたりが自宅(借家)を借りる際の保証人になっていたため、大家とのやり取りもすべて義母が行っていた。戻る可能性は限りなく低いので賃貸契約の解除をしたくても、家財道具を整理する必要があり、なかなか前に進めそうもない。

結局、家の鍵は義母が預かり、時間をかけながら整理していくしかなかった。また、施設では多額の現金や預金通帳類を保管してもらえず、叔父やケアマネージャーとも相談のうえ、義母が預かることになってしまった。これも大きな負担だった。