近年の脱・戦略計画型経営論とのシンクロニシティ
先に紹介したカレイナナムらが提唱するアジリティ(俊敏さ)は、近年の経営における脱・戦略計画型の諸論――エフェクチュエーション(企業の実効論理)、ダイナミック・ケイパビリティ(動的な企業能力)、デザイン・シンキング(試作先行の企画)、ストラテジック・イントゥイション(直感的戦略行動)、リーンスタートアップ(贅肉をそぎ落とした起業)など――との共通点が多い。これらの脱・戦略計画型の緒論はコロナ禍以前より、デジタル化が進み、イノベーションの機会が増すグローバルな市場環境のもとで提唱されてきた。
そしてこれら脱・戦略計画型の諸論の重要性が、ニューノーマルのもとで一段と高まっている。だからこそ私たちは、蟻たちのミクロな行動の合理性を問い直してみるべきなのである。
行動がもたらすフィードバックを活用せよ
脱・戦略計画型のアプローチに見られる共通項は、行動を起こすことの重要性である。歩くことで棒に打たれることを避けようとするのではなく、行動を始めることで生じる新たな気づきや情報の取得を活用しようとする。出る杭は打たれるが、打たれることによって新たな情報や気づきを獲得できる。この「行動することがもたらすフィードバック」を活用しようとするのが、脱・戦略計画型のアプローチである。
こうした俊敏なマーケティングの活用は、コロナ禍以前から広がり始めていた。デジタル時代の各種の市場においては、マーケターが立ち止まって思考することができる時間の猶予は一段と短くなっていく。新しい技術、システム、ビジネスモデルが次々に生まれ、顧客の行動は流動化し、備えるべき競争の範囲の拡大も止まらない。こうした変化への俊敏な反応の必要性に、コロナ禍が拍車をかけた。