ニューノーマルのなかで活路を模索する

渡邉氏は「飲食需要は食べたいものを明確に見定める『目的来店』の傾向が強まっている。すし業態と焼き肉業態の両輪でそれをつかみにいく」と述べる(日経MJ、2021年12月12日)。ワタミではコロナ禍の発生以来、各種の店舗に配膳ロボットを導入したり、コロナ禍以前から参入していた宅食事業での利益を大きく伸ばしたりしている。従来型の居酒屋はニューノーマルのもとでは「不要ではないけど使われ方は変わる。それは否めない」(日経MJ、2020年8月12日)との認識のもとでの、多面展開である。

他の大手飲食企業はどうか。回転寿司のスシローは、テイクアウト専門店の展開を始めている。ドトールは、郊外や地方への出店を広げている(商業施設新聞、2021年6月22日)。突然のコロナ禍によって生じた日本各地の店舗の空きスペースには、優良物件も少なくない。新しい生活様式への対応をにらんで、テイクアウトやデリバリーに対応できる業態への切り替えや、郊外のファミリー層などへの対応の強化を進める動きが広がっている。

暴風雨のなかで蟻はどう行動するか

企業をとりまく市場環境の変化については、今後も予断は許されない。だがコロナ禍のもとでも、世界中のビジネスは、縮小することはあっても、止まってはいないのだ。巨大な自然災害や人災によって先行きが見通せなくなっても、企業の経営は続けなければならない。

1978年のノーベル経済学賞受賞者であるハーバート・サイモンは、名著『システムの科学』のなかで、蟻の足跡を題材にし、ごくシンプルなアルゴリズムでも環境からのフィードバックによって複雑な環境に対応できるという、現代の人工知能(AI)にもつながるシステム構築の可能性を説いた(*6)。サイモンにならって、蟻の行動をヒントに、コロナ禍のような危機のもとでのビジネスの論理を考察してみよう。

もし暴風雨に襲われたとき、蟻たちはどうするだろう。おそらく急いで巣穴に引き返すはずだ。しかし蟻たちは、じっと巣穴にこもり続けるわけではなく、一時的にでも風雨が弱まれば、巣穴の外に頭を出して様子をうかがい、チョロチョロと活動を再開するだろう。変化した周囲の環境を少しずつ探り、食料などを見つけては持ち帰るだろう。