藤原道長の妻・明子はどんな人物だったのか。歴史評論家の香原斗志さんは「醍醐天皇の孫で身分は高いが、父親が政変に巻き込まれ失脚した。後ろ盾を失った彼女は、それを藤原氏に求め道長の妻になった。NHK大河ドラマで描かれた明子像はかなり脚色されている」という――。

なぜ道長の妻は義理の父を呪詛すると誓ったのか

脚本家はドラマにさまざまな凹凸をつける。視聴者の耳目を集めるために、それが欠かせないというのもわかる。だが、時に、この人はなぜこんなに恐ろしく描かれているんだ、と身震いを強いられる凹凸もある。背景はいまひとつわからないながらも、とにかく不気味さが際立つという場面である。

そんなうちのひとつが、NHK大河ドラマ『光る君へ』に描かれた、瀧内公美演じる源明子ではないだろうか。

第33回東京国際映画祭のオープニングセレモニーに登壇した映画『アンダードッグ』の瀧内公美さん(2020年10月31日、東京都千代田区の東京国際フォーラム)
写真=時事通信フォト
第33回東京国際映画祭のオープニングセレモニーに登壇した映画『アンダードッグ』の瀧内公美さん(2020年10月31日、東京都千代田区の東京国際フォーラム)

第12回「思いの果て」(3月24日放送)で、22歳の藤原道長(柄本佑)は続けざまに2人の女性、すなわち2歳年上の源倫子(黒木華)、および1歳年上の明子と結婚した。

まひろ(吉高由里子、紫式部のこと)と破局し、気持ちを振り切るため、という設定だと思われたが、史実の道長は、もっと虎視眈々と2つの縁談を進めたものと思われる。天皇の血縁である「源」の血筋を、臣下にすぎない「藤原」に注ぎ込むという野望があったからである。

それはさておき、明子の言動は不気味だった。そもそも、明子は最初から、笑みを見せない底知れぬ女として描かれていた。

そのうえ、道長との縁談を前にして、兄の源俊賢(本田大輔)に「道長の妻となれば兼家に近づけます。兼家の髪の毛一本でも手に入れば、憎き兼家を呪詛できます」「私の心と体なぞ、どうなってもいいのです。必ずや兼家の命を奪い、父の無念を晴らします」と訴えたのだ。

兼家とはいうまでもなく、このとき関白太政大臣としてわが世の春を謳歌していた道長の父、藤原兼家(段田安則)のことである。