紫式部と藤原道長は恋人関係にあったのか。歴史評論家の香原斗志さんは「道長が紫式部を買っていたのは間違いないが、史実からわかるのは、雇用者と被雇用者の関係だ」という――。
大河で描かれた道長と紫式部のラブシーン
目下、NHK大河ドラマ『光る君へ』に関し、もっとも賛否両論に分かれるところは、恋愛劇になりすぎてはいないか、という点だと聞く。藤原道長(柄本佑)とまひろ(紫式部のこと、吉高由里子)は、たがいにそれぞれの素性を知る前から惹かれ合っているように描かれてきた。
そして、第10回「月夜の陰謀」では、ついに2人は一線を越えた。道長は和歌、まひろは漢詩で恋文を交わしたうえで、密会してラブシーンを演じたのである。
ただし、二人の関係がそれ以上は深まらないように、ドラマは仕組まれていた。
道長がまひろに「一緒に都を出よう。海の見える遠くの国に行こう」「藤原を捨てる」と駆け落ちを誘いかけると、彼女はよろこびながらも、「道長さまは偉い人になって、直秀のような理不尽な殺され方をする人が出ないような、よりよき政をする使命があるのよ」「一緒に遠くの国には行かない」と拒絶。「いとおしい道長さまが、政によってこの国を変えていくさまを、死ぬまで見つめ続けます」と伝えた。
道長の「正義」による変革に期待する、というのは、近代以降の発想で、平安王朝のドラマには似合わない。しかし、番組がはじまったときから、2人に恋愛感情がある前提でここまでドラマは進んできた。それをいったん断ち切るためには、必要な措置だったといえなくもない。
2人の関係が続いていたら、すぐ先の史実と抵触し、さりとて2人の関係を悪化させてしまえば、しばらく先の史実と合わなくなるからである。