ドラマで注目を集める徳川家治の本当の姿
徳川家治。歴史上、比較的地味なこの10代将軍にいま脚光が当たっている。その正室であった五十宮倫子(小芝風花)を主人公に据えたフジテレビ系の木曜劇場「大奥」で、家治を亀梨和也が演じているからである。
もっとも、ドラマのストーリーについて、史実に合っているかどうかを問い出すと、ほとんど滅茶苦茶だといっていい。
第9話では、側妾の一人のお品(西野七瀬)が、家治の次男である貞次郎を出産。やはり側妾のお知保(森川葵)に産ませた長男の竹千代と、どちらを世継ぎにすべきか争いが起きようとしていたところに、家治が竹千代を選択。名を家基とすると決めたが、その直後、家基は松平定信(宮舘涼太)の差し金で暗殺されてしまった。
また、家治には出生の秘密があって、ほんとうは将軍家の生まれではなく、それを知っているのが田沼意次(安田顕)だけなので、将軍でありながら田沼には一切逆らえない、という設定になっている。第10話ではついに、その秘密が明らかになるという。
起きようがなかった世継ぎ争い
たしかに、家治の長男として宝暦12年(1762)に生まれた竹千代あらため家基は、11代将軍になることを期待されながら、安永8年(1779)に急死している。鷹狩りの帰りに突然体調を崩し、その3日後には死去しているので、暗殺説がなかったわけではない。
だが、享年は数え18で、ドラマのような幼時ではなかった。また、ドラマでは家基の死後も貞次郎は生きているが、史実では、家基と同じ年に生まれた貞次郎は翌年、すなわち家基が死去する16年も前に命を失っていた。そもそも、この2人のあいだで、どちらを世継ぎにするかという争いが起きる余地はなかったのである。
それに、9代将軍家重の長男として生まれた家治に、出生の秘密があったという話は、少なくとも史料等では確認できない。
このように史実との齟齬を指摘し出すとキリがない。ドラマ「大奥」では、史実の順序は自由自在に入れ替えられ、そこに種々の劇的要素が、史実かどうかはおかまいなしにまぶされ、各人の思惑がファンタジーを交えてからめられている。
だが、制作サイドはそんなことは承知のうえで、大奥らしいドロドロした人間模様が鮮明になることをねらっているのだろう。その結果、視聴者が大奥の雰囲気を感じとれるのであれば、一概に否定するのもどうかとは思う。