3年半前に証券会社を辞めて独立

バナナで1億円稼ぐ男がいる。

どこのスーパーでも売っている、1本100円もしない黄色いバナナだ。生産する農家の話ではない。輸入する専門商社でもない。冷凍したバナナと牛乳をミキサーで混ぜるだけの、バナナジュースに商機を見いだした男の話だ。

バナナジュース
提供=バナナスタンド

京王線桜上水駅前。北口の階段を下りると、銀行ATMが立ち並ぶ駐車場が見えてくる。緑の三井住友、赤の三菱UFJ、青のみずほ。その奥にある水色の看板が、バナナスタンド桜上水店だ。

駅から歩いてきた人が立ち止まっては、ジュースを手に帰っていく。行列になることはあまりないが、夏には1日で平均200杯は売れる。1杯340円なので、売り上げは7万円程度だ。月商200万円。同じような店舗が都内に5店舗あり、月商は合わせて1000万円だ。

人気があるのに行列にならないのは、バナナジュースを提供するスピードが速いからだ。スタッフが2人いれば20秒もかからない。ひとりでも、1分待たせることはない。

「駅前に店を出す以上、スピードは大事ですからね」

店頭に立つ男が、黒田康介。バナナスタンドの社長だ。上から下まで全身黒ずくめの服装と、後ろ向きにかぶったキャップがトレードマークだ。

バナナスタンドの社長、黒田康介さん(29歳)。大手証券会社を辞めて、飲食店を起業。
提供=バナナスタンド
バナナスタンドの社長、黒田康介さん(29歳)。大手証券会社を辞めて、飲食店を起業。

実は黒田とぼくは、同じ会社で働いていたことがある。彼が証券会社を辞めて独立したのが、2018年。わずか3年半前だ。金融出身らしいと思うのは、世のなかの潮流に対するアンテナを高く持ち続けているところだ。

ランチで3つの店を食べ歩き

この日はESG割引として、もげたバナナを使ってジュースを作っている。ジュースを飲むことが地球環境の役に立つと思えば、客の財布もゆるくなりがちだ。10円引きというのもうれしい。

味はいつもと変わらない。ストローから一口吸うと、ジューシーなバナナが冷たいままのどを通っていく。バナナそのものの自然な甘みで、砂糖は一切使っていない。おいしくて、健康に良くて、安い。ここにたどり着くまでには、怒涛の3年半があった。

黒田康介は、1992年生まれの29歳だ。一橋大学商学部を現役で卒業し、2015年4月に大手証券会社に入社する。独立志向の強い黒田にとって、就職は一つのステップでしかなかった。金融機関であれば、起業に必要な知識や経験が積めると考えていた。

ターゲットは外食産業だ。食べることが好きで、会社勤めをしていたときから平日の夜は部屋で料理を作り、週末は全国を食べ歩いていた。

黒田の食べ歩きは驚異的だ。独立した今では、ランチで3つの店を回ることも少なくない。夜回ると決めれば、朝食も昼食もとらない。一週間で5キロ以上体重が変動することもある。そんな黒田が最初に選んだ業種が、焼きそば屋だった。