元大手証券マンの黒田康介さん(当時25歳)は、2018年に脱サラして下北沢で焼きそば店を始めた。しかし、なかなか経営は上向かない。そもそも黒田さんはなぜ「焼きそば店」を開いたのか。そこには「芸能人が取材に来ても、サインは飾らない」という神保町の人気店の影響があった。黒田さんの元同僚で、兼業作家の町田哲也さんがリポートする――。(第3回)
屋台で焼きそばをつくっている
写真=iStock.com/Maica
※写真はイメージです

グルメサイトが集客を大きく左右する

前回から続く)

飲食店経営において、店の評判は売り上げを大きく左右する。おいしいという味覚に絶対的な基準がないため、多くの人は他人の評価を気にするようになる。通常は根拠にこだわる人も、食事の話になると口コミやうわさといったものを信じやすい。

この評判形成において、日本でもっとも影響力を持つのはグルメサイトだろう。ある著名サイトでは、90万軒もの飲食店が紹介されている。それらをユーザーの評価を基にした5つの星でランキングしている。

この星の数やコメントが来客数に大きく影響するだけに、飲食店経営者としては無視できない。

黒田が脱サラして始めた焼きそば店である「東京焼き麺スタンド」にはじめてグルメサイトで星がついたのは、開店して2カ月ほどたった頃だった。3.02は、五つ星の評価の真ん中ほどだろうか。同社の説明では、4.0以上が店全体の上位500程度しかなく、3.5以上が全体の約3%、3.5未満が全体の約97%に達するという。

黒田の目標は3.5以上、すなわち日本の飲食店全体の3%に入ることだった。黒田の印象では、1000円以下の単価で3.5以上の点を獲得している店はほとんどない。

実際にこの時点で3.5以上を獲得している焼きそば店は、都内に10程度しかなかった。正しく店の評価になっているかどうかはべつにしても、星の数を見て客が判断している以上、売り上げの多くがここにかかっているといっても過言ではなかった。

しかし、こういったグルメサイトの星には不透明な点も多い。一般読者がポイントをつけても、なかなか点数には反映されない。点数を上げるには、実績の豊富な有名レビュアーから高い評価を得る必要があるという。黒田の友人のコメントも、数日で削除されてしまった。