300万円でフードトラックを購入
「やっと点数が上がってきました」
焼きそばをテーブルに置くと、黒田はほっとした表情をした。開店から4カ月たって、効果が出てきたようだ。
「すごいじゃない。何かあったの?」
「推測でしかないんですけど、数千人のフォロワーを持つ方が、来店したのが大きかったんだと思います。3.22まで上がりました」
10月以降、売り上げがやや増加に転じていた。「行きたい」と登録する客の数も増えているという。一日平均40食超えといった水準に満足はできないが、週末は60食を超えてきた。高校生や大学生が増えている印象で、aumoの効果もあるのだろうか。
特に大きいのが、カレーフェスティバルなどのイベントだ。下北沢では定期的にイベントが開催されるので、着実に収益化させなければならない。問題はランチタイムだ。よりリピーターを増やし、売り上げを安定させていく必要があった。
黒田が売り上げ拡大の切り札と考えていたのが、フードトラックだった。300万円もの資金をかけて、9月に購入に踏み切っていた。
狙っていたのは、週末の原宿だ。歩きながら食べる人が多いことを考えると、メインは焼きそばよりブリトーのほうがいいかもしれない。定価は500円で、プラス100円でドリンクもつける。11時半から15時までの営業で、一日50食程度の販売を見積もっていた。
売り上げの30%を場所代として払い…
10月に入り、意外なところから話が来た。あるテレビ局の前にある広場で、すぐに入れるフードトラックをさがしているという。7日間の期間限定だが、試運転の意味も込めて申し込むことにした。
オフィス街なので、メニューはソース焼きそばのみにした。昼だけの販売で初日が20食、翌日は31食に達した。最終日は40食に届いたので、まずまずの反応といっていい。
「満足はできないですけど、やり方がわかったのは大きいです」
「もう少し続けてみたかった?」
「テレビ局の食堂を修理している間だけという話だったんです。通常は売り上げの10%を場所代としてオーナーに払う必要があるんですが、今回は特別な事情があったので30%も取られました。これじゃ長くやっても利益にならないし、ちょうど良かったかもしれないです」
急な話だったからか、企画会社の運営が準備不足だったという。テレビ局への事前連絡もされていなかったことを考えると大健闘だ。黒田は、初めて使うフードトラックの授業料と割り切っているようだった。
問題は、フードトラックの今後の予定が決まっていないことだった。見込んでいた原宿の駐車場は、契約上また貸しができないとのことで宙に浮いてしまった。明大前はいつでも出店可能な状態にあるが、客数が読めないのがネックだ。
大手町は人気スポットで、登録はしているものの順番待ちが続いていた。多くの業者が、少ない席を巡って争っていた。